所変われば論理も変わる 「業界小説」特集
「泥の中を泳げ。」吉川圭三著
どんなに非常識に見えようが、その業界にはその業界の「論理」が存在する。そんな「論理」を自らふりかざす者もいれば、その中でもがきながら結果を出した者もいる。マスコミ、美術、医療などの世界で闘う者の人生をのぞいてみよう。
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海外ドキュメントバラエティーのロケディレクターの佐藤玄一郎は、大手テレビ制作会社の岸本妙子にカリブ海のある国の大使に引き合わされた。「黒人たちの力だけで宗主国から独立した誇り高い国家」に日本人観光客を呼びたいというのだ。
まずは玄一郎が先遣隊として現地入りすることに。到着した空港にはカラシニコフを肩から下げた兵隊がいた。アメリカ人の若者が何げなくパスポートコントロールの列を離れた瞬間、兵士がその足元を掃射した。日本大使館では大使に、この国は内乱状態で国家が機能を果たしていないと言われ、ボディーガードを雇うように指示された。玄一郎は東京の岸本に「取材中止」を頼んだが、岸本からは「これ以上放送のストックがないのよ」という回答があるだけだった。
理不尽な指示がまかり通る世界に生きる新米テレビマンの奮戦記。
(駒草出版 1600円+税)
「雨にも負けず」高杉良著
ネット上の国際物流会社イーパーセルは顧客の秘匿性の高い大容量データをネット上で安全に配送するサービスを行う会社だ。その社長、北野譲治は、2011年、米国での特許が侵害されたと、グーグルなどのIT企業13社を提訴した。その結果、12社とライセンス契約を結び、実質的な勝訴となった。
北野は大学卒業後、サラリーマンには向かないと、損保の契約社員になる。28歳で保険代理店ジョージ・コーポレーションを立ち上げた。ビジネスは順調だったが、それに飽き足りなくなった頃、ボストンのイーパーセル・インクの社長、財津に口説かれ、会社を部下に譲って入社。北野は対等なパートナーとしての入社と思っていたのだが、入社が決まったとたん、財津は「北野君」と呼ぶようになる。
世界が認めるITベンチャー企業を率いた男の半生を描く。
(KADOKAWA 1600円+税)
「限界病院」久間十義著
外科医の城戸健太朗は39歳。東京の大学病院から北海道の富産別市立バトラー記念病院に転職した。まだ赴任して1カ月なのに、伊藤事務長から外科部長になってほしいと言われて驚く。外科部長の畠山が北斗医大の医局に呼び戻され、後任の医師も回してもらえないらしい。城戸は固辞したが、結局は押し切られて引き受けることに。
そのころ、市当局は病院の赤字対策のために監査委員会を設け、院長を病院の管理責任者から降ろして、単なる医療業務のトップにすると決定した。北斗医大は、市の予算措置に抗議し、北斗医大出身の曾田院長は辞任を申し出る。次いで医師の引き揚げが始まり、次々と診療科が立ちゆかなくなる。そして、東京の警察病院の元副院長が院長に着任した。
財政危機で苦しむ地方の病院を舞台にした人間ドラマ。
(新潮社 2100円+税)
「ザ・ウォール」堂場瞬一著
外科医の城戸健太朗は39歳。東京の大学病院から北海道の富産別市立バトラー記念病院に転職した。まだ赴任して1カ月なのに、伊藤事務長から外科部長になってほしいと言われて驚く。外科部長の畠山が北斗医大の医局に呼び戻され、後任の医師も回してもらえないらしい。城戸は固辞したが、結局は押し切られて引き受けることに。
そのころ、市当局は病院の赤字対策のために監査委員会を設け、院長を病院の管理責任者から降ろして、単なる医療業務のトップにすると決定した。北斗医大は、市の予算措置に抗議し、北斗医大出身の曾田院長は辞任を申し出る。次いで医師の引き揚げが始まり、次々と診療科が立ちゆかなくなる。そして、東京の警察病院の元副院長が院長に着任した。
財政危機で苦しむ地方の病院を舞台にした人間ドラマ。
(新潮社 2100円+税)
「美しき愚かものたちのタブロー」原田マハ著
1953年、美術史家の田代雄一は日本政府の特命交渉人としてパリに送り込まれた。実業家の松方幸次郎が私財を投じて買い集めた3000点ともいわれる西洋美術作品は、戦争で散逸、焼失。フランス国内に保管されていた作品は、元日本大使館付武官、日置が守っていたため無事だったが、戦後、サンフランシスコ講和条約に基づいてフランス政府に没収された。それを取り戻すためにやってきたのだ。
田代はかつてロンドンで松方に会ったとき、フランク・ブラングィンの絵を見せられた。それは「絵なんぞわからん」と言う松方が初めて興味を持った画家だった。松方はその作品を見せて、初対面の田代に美術品収集のアドバイザーになってほしいと依頼したのだ。
美術品返還交渉を進めた吉田茂首相など、ルーブルに匹敵する美術館を日本に造るために奔走した4人の男を描く。
(文藝春秋 1650円+税)