「バー堂島」吉村喜彦著
大阪・北新地のはずれにあるバー堂島は、カウンター5席の小さな店。マスターの楠木が以前働いていた東京のバーにならい、窓から堂島川の流れが見える。開店早々、友人の南方が現れた。僧侶の南方は、日雇い労働者たちの世話で忙しく、年に2回しか店に姿を見せない。南方の父親は、和歌山の裕福な農家の生まれだったが、友人の借金を肩代わりして資産を失い、釜ケ崎に流れ着いた。母親が若い男と出奔後、父は酒におぼれて死んだ。そのとき、親身になって励ましてくれた僧侶が忘れられなくて、今の南方がある。南方がそんな思い出に浸っていると、ホステスのひかりが大男の同伴客を連れて来店する。(「春~うらら酒」)
小粋なカクテルとつまみを小道具に描くハートウオーミング連作集。
(角川春樹事務所 580円+税)