新井素子(作家)
1月×日 今年は岡山でお正月。うちの夫が去年還暦を迎えたので。還暦になると、何故か同窓会ってやりだすよね。で、岡山の場合(遠いから)大体みんなが帰省しているお正月にってことになる。
ただ……私にはやることがない。で、30何年かぶりに、1月2日から開館している倉敷の大原美術館に行ってみた。懐かしい絵にも沢山会えたし、音声ガイドも充実。
岡山は遠い。5冊くらい本を持っていったんだけど、穂波了著「月の落とし子」(早川書房 1800円+税)が、よかったあっ。月面で宇宙飛行士が突然死ぬ。遺体をみる限り、感染性の病気で亡くなったとしか思えない。でも、現場は月。当たり前だけど、ずっと宇宙服着てるんだよ? この状況で病気に感染するって、どうやって、てな謎から始まって、どうしても仲間の遺体を地球へ連れて帰りたい宇宙飛行士、できればそんなもの自国にいれたくない政府、そして起きる事故、結果発生するパンデミック。非情としか思えない封鎖作戦。ラストあたり、ほんとに泣けます。好きだ。
1月×日 旦那が旧友とお酒呑んでる間、私は倉敷美観地区を観光。観光地なら当たり前だって言われるかも知れないけれど、店員さん達がみんな親切でフレンドリー。ただ、私は買い物苦手なんで、結局、あっちこっちで本読んでた。
吉川英梨著「正義の翼」(KADOKAWA 720円+税)、楽しかった。これ、警察学校を舞台にしたシリーズ物の4作目なんだけれど、警察学校の中だけに留まらず、外の事件と毎回リンクしちゃうんだよね。その上、青春ものでもあって、成長物語。
学校が舞台なら青春もので成長物語って当然のような気がするが、なんと、教官や同僚の人々なんていう、いい年したひとまでみんな、青春味わって成長するの。
今回は、事件の性質上、全然明るくなくほのぼのしなかったんだけれど、基本、お正月にはこういう前向きな人々のお話を読むの、いい。