吉村喜彦(作家)

公開日: 更新日:

11月×日 新作の小説「バー堂島」(角川春樹事務所 580円)のプロモーションで大阪に。新幹線のなかで、中沢新一著「大阪アースダイバー」(講談社 1900円)を再読。今回の小説の表紙は、白地にカンパリソーダの真っ赤な液体の入ったグラスの絵だが、この赤い色はまさに夕陽が丘から見る大阪湾に沈む太陽の色だったとあらためて気づいた。以前読んでいた本の情報は、無意識のなかにしっかり刻み込まれているのだ。

11月×日 大阪からの帰りに、仲野徹の「仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう」(ちいさいミシマ社 1900円)を読む。

「はじめに」のところで、「ステレオタイプの大阪ではなくて、もっと文化の香りがする大阪、あるいは、大阪の人ですら普段気づかないような大阪、を知ってもらうべきではないか」という思いを、生粋の大阪人である仲野さんは抱いていたと書いてあり、まったく同感と、冒頭から引き込まれた。

 ぼくは大阪生まれだが、東京暮らしの方がはるかに長い。エスカレーターもおもわず左側に乗ってしまう在東京大阪人だ。父は大阪生まれ、母は東京生まれなので、子どもの頃から2つの文化のなかで揺れてきた。(えらい大げさですんません)でも、感情的になったときは大阪弁になる。なので、自分は「東京にたましいは売っていない」と思っている。そんなぼくから見て、大阪人といえば、人の頭を叩きながら、えげつなく突っ込んでは笑いをとり、濁声で自己主張し、金と色の欲望が強い――みたいに思われているのは、めっちゃ悲しい。

 この本は仲野さんと大阪に詳しい人が、大阪弁、大阪城、食、音楽、大阪のおばちゃん、落語、地ソース、地ポン酢、大大阪時代など、それぞれのテーマで対談を繰り広げるのだが、あまりに面白くてあっという間に読み終えた。しかし内容は深い。で、この本で知ったのだが、「大阪ソースダイバー」という本もあるそうで、これはぜったい読まなくちゃ。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…