家田荘子(作家・僧侶)
1月×日、年明けは毎年4日間、深夜の海に入って水行をし、災害が起こらぬよう、1日も早い復興と、人々の穏やかな生活とを祈願させて貰う。山岳行者で高野山の僧侶なので、20年間年中、深夜の海で一人行を続けている。寒さや冷たさと、深夜の孤独行の怖さに慣れることは決してない。
命賭けの水行をしているので、昼間はカフェで読書して楽しくすごす。黒川博行さんの「果鋭」(幻冬舎 800円+税)は、何度も何度も私を笑わせてくれる。
私は、黒川さんが「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞を受賞されたときからの熱心な読者だ。「疫病神」シリーズもドキドキ楽しませてくれるが、「元大阪府警マル暴のおっさんペア」堀内・伊達シリーズの方が、もっと私に元気と笑いをくれる。
とはいえ内容は、警察世界やパチンコ業界など、綿密な取材に基づく大まじめ作品だ。ヤクザが登場して、おっさん2人は、突いたり刺されたり、さらったり撃たれたりと命賭けだ。シリーズ2作目「繚乱」は、堀内が刺された所で終わっている。「果鋭」で判ったことだが、三途の川を渡りかけたそうだ。しかも座骨神経損傷で堀内は杖が必要になった。
なのにおっさん2人は、動きが早い。マメにあちこち人に会いに行く。そして、よく食べてよく飲む。伊達の頭の中には「京阪神うまいもんマップ」があるそうだ。もう1つ、実によく吸う。嫌煙家の私は「おっさん、吸いすぎや」と、度々叱りたくなる。
東京大阪と二重暮らしをしている私にとって2人の会話は、その辺の「大阪のおっさん」と変わりない。でもその危なくて粋な会話こそが、作品を華やかに盛り上げている。黒川さんは、科白を声に出して書かれるそうで、まさに会話が生きている。2人の会話から、山一抗争のさ中、「極道の妻たち」の取材で訪れた大阪府警の「マル暴おっさんたち」が重なり、懐かしくなった。