「パレスチナを生きる」渡辺丘著
2017年12月6日、トランプ米大統領は「エルサレムをイスラエルの首都と認定する」と発表。この唐突な宣言に反発したパレスチナ自治区・ガザ地区の武装組織とイスラエル軍との紛争が勃発。また同区の住民たちは「帰還の行進」と名付けられた抗議デモを開始し、これを阻止するイスラエル軍の攻撃により多くのパレスチナ人の死傷者が出た。
著者は2014年から19年まで朝日新聞のエルサレム特派員として中東報道に携わった。本書は、ニュース報道では伝えづらい、空爆下に暮らすパレスチナの人々の等身大の姿を描いたもの。「帰還の行進」デモの参加者、ヨルダン川西岸地区におけるユダヤ人入植地の実態、右傾化が進むイスラエルの現実、そしてパレスチナと日本をつなぐ「懸け橋」となっている人たちなどが登場する。
周囲を巨大な壁で囲まれ「天井なき監獄」と呼ばれるガザ地区では、若者の失業率が7割を超え世界最悪の水準とされるが、東日本大震災の被災者との友情を深める子どもたちや、厳しい制約の中、IT起業した若い女性など、数字では表せないパレスチナの人々のナマの声を伝えてくれる。
(朝日新聞出版 1600円+税)