石原壮一郎(コラムニスト)
1月×日 ああ、またマヌケな失敗をしてしまいました。まだ1月なのに、今年に入って何回目でしょう。せっかく買っておいた手土産を忘れていったり、余計なひと言で相手を怒らせたり……。
そんな折も折、たいへん勇気づけられる本と出合いました。萩本欽一著「マヌケのすすめ」(ダイヤモンド社 1300円+税)です。
かつて「視聴率100%男」と呼ばれた欽ちゃんが、じつは「マヌケ100%男」だった人生を振り返りつつ、マヌケの素晴らしさ、マヌケであることの大切さを説いてくれています。
コント55号結成のマヌケないきさつや、天才的なマヌケである斎藤清六さんとの泣けるやり取りなど、子どもの頃から欽ちゃんに憧れてきた50代以上にとっては、嬉し過ぎる秘話もいっぱい。
波乱のエピソードを通じて、「マヌケであればあるほど運がたまる」という帯のメッセージに、深く納得させられます。
「世知辛い」という言葉が似合う世の中で、私たちが大切にしたいのは「いかに毎日を心穏やかに生きるか」ではないでしょうか。
他人のあら探しをしたり、SNSで誰かや何かに噛みついたり、仕事や人間関係で小さな勝ち負けに一喜一憂したりしている場合ではありません。マヌケという言葉を鎧にして、ダークサイドに堕ちそうになる甘い誘惑をはねのけましょう。
1月×日 「マヌケであること」とは、つまりは「自分や他人に寛容であること」。昭和の子どもたち(令和の大人たち)のいたずらを集めた「いたずら事典」(はるや 1300円+税)も、昨今の世知辛さに果敢に挑戦している1冊です。
ひざかっくんのような無邪気ないたずらから、今もし実行したら大炎上必至のいたずらまで、懐かしいいたずらが満載。それをやっていたころの自分を思い出すことで、忘れていた「寛容の精神」を取り戻すことができる……かもしれません。
「マヌケ心」と「いたずら心」。2020年は、このふたつのキーワードを胸に抱きつつ、なるべく穏やかにノンキに過ごしたいと思います。