「嫁の家出」中得一美著
品の夫・三左衛門は、北町奉行所吟味方与力。娘は既に嫁ぎ、あとは三左衛門が隠居して、息子の新之助が家督を継ぐのを待つばかりだが、三左衛門には一向にその気がない。品の夢は夫婦で江の島へ旅することだが、堅物の三左衛門は仕事を理由に取り合ってくれない。暇を持て余した新之助は、町医者の榕庵に出入りし、怪しい薬づくりに余念がなく、品は苛立ちを募らせるばかり。さらに、三左衛門から夜な夜な夜のお勤めを求められ、品はへきえき。
友人の入れ知恵で妾の雪野を雇うが、品の企みに気づいた三左衛門に反撃され、2人の仲はますますこんがらがってしまう。意を決した品は、ひとりで江の島へ旅に出る。
すれ違い中年武家夫婦を描く痛快時代小説。
(実業之日本社 700円+税)