安楽死、尊厳死を考える本特集

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「終の盟約」楡周平著

 藤枝輝彦は、糖尿病治療を専門とする内科医。ある日、元医師である輝彦の父親が輝彦の妻の入浴をのぞき見するという事件が起こる。しかも父親のアトリエには、輝彦の妻をモデルとした裸婦や男女の性交の姿を描いた絵が散乱。異常さを感じて連れていった病院で、認知症の診断が下された。

 輝彦は、以前父から認知症と診断されたら専門の施設に入り、延命治療は拒否するように事前指示書を渡されていたことを思い出し、指示書通りに入院させる。これから先の見えない認知症との闘いが始まるのかと思っていたが、父親は心不全で急死してしまった……。

 本書は、認知症になったら家族に迷惑をかけることなく死にたいと望む元医師の死を巡る物語。認知症介護の過酷さと、命の選択の問題を突き付けてくる。

(集英社 2000円+税)

「眠りの神」犬塚理人著

 主人公は、スイスの自殺幇助団体「ヒュプノス」の医師である絵里香・シュタイナー。絵里香は、東京の自殺幇助事件の被害者が、以前ヒュプノスに自殺幇助依頼をしてきた人物で、しかもかつてヒュプノスにいた日本人医師・神永が関わった可能性があるという話を聞き、真相を確かめるべく来日した。しかし犯行に使用された薬が被害者に苦痛をもたらす青酸カリであることを知り、その状況に疑問を覚える。そんな折、新たな自殺幇助事件が発生。今度は塩化カリウムが使われていたものの、被害者はヒュプノスに以前自殺幇助の依頼をしてきた人物だった。果たして事件の真相は……。

「人間狩り」で第38回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した著者による最新作。死を望む人物に死をもたらすことの是非を問いかけてくる。

(KADOKAWA 1700円+税)

「命と祈り」妹尾雅明著

 緩和ケア専門の病院を経営する傍ら、死体検案医を務めてきた医師が、自ら立ち会った数々の死の経験を通じて感じた、今を生きていくために必要なことをつづったエッセー。

 著者は、死体検案をするなかで自殺や事故死などの公認されない死によって、残された遺族がいつまでも「なぜ?」と感じてしまい悲嘆から抜け出せない状況に遭遇した。残された人が自由に悲しみを表現できない死に方ではなく、お互い感謝の気持ちを伝えられるような死に方ができるように生きるための方策として、著者は祈ることや自己破壊的な行為を続けないこと、人に寄り添う大切さなどを説く。また、ホスピスにおいては自尊心が満たされるため自殺する人はいないことや、平穏な死を迎えるための鍵となる家族との時間についても言及している。

(幻冬舎メディアコンサルティング 1200円+税)

「小説『安楽死特区』」長尾和宏著

 作家の澤井真子は、70歳を目前にして記憶力の低下に悩み始めた。日に日に自分の行動に自信がなくなり、ついに認知症外来を受診。中程度のアルツハイマー型認知症という診断を得た。

 そんなとき、安楽死特区という構想があることを編集者から聞く。自分が自分でなくなったら、小説が書けなくなるのではないか。安楽死特区に入って、その体験談を最後に書いてから死にたい。

 そう思い立って安楽死特区への引っ越しをすませ、久しぶりに認知症外来を訪れると意外な事実が待っていた……。

 日本尊厳死協会の副理事長で医師でもある著者による初の本格医療小説。財政状況から安楽死を推奨する国の思惑が恐ろしい。

「この物語が近い将来、現実にならないことを祈っています」という巻末の一言が意味深だ。

(ブックマン社 1400円+税)

「安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと」安藤泰至著

 安楽死や尊厳死の是非を巡る議論は、多くの場合混乱している。なぜ建設的な議論が難しいのか。その原因を検証したのが本書だ。

 混乱の原因のひとつは、言葉の受け止め方の違いにあるという。安楽死というと、苦痛もなく穏やかに亡くなることをイメージしがちだが、実際には「安楽では死ねないような状況」で意図的な行為によって「苦痛に満ちた生を終わらせる」ことを意味するし、尊厳死における「尊厳」も「尊厳がないように見える状況で生かされている状況」で人の死をもたらす意図的行為が行われることを指す。

 著者は、安楽死や尊厳死を語る前に、過労死が横行する社会で死にたい人が死にたくなくなるような手だては尽くされているのか、各人が個々の生き方を尊重できる社会なのかという問いを投げかけてくる。

(岩波書店 520円+税)

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