「贖罪」吉田喜重著
「わたし」は10歳の頃、2階の薄暗い納戸の奥で、古い新聞記事を見つけた。紙袋の中に、「五・一五事件」「ノモンハン事件」などと共にその記事はあった。それはルドルフ・ヘスの記事だった。
ヘスはナチス・ドイツの副総統でありながら、単身、メッサーシュミット機で交戦中のスコットランドまで飛行し、落下傘で降下するという奇妙な行動を取った。その謎めいた行動は精神錯乱によるものだと思われていた。この記事を収集したのは15歳年上のいとこに違いない。ヘスに興味をもった私は主語の書かれていないヘスの手記を手に取った。
ルドルフ・ヘスと同時代を生きた著者が書いた長編小説。
(文藝春秋 3000円+税)