「独裁者のブーツイラストは抵抗する」ヨゼフ・チャペック著、増田幸弘、増田集編訳
ヨゼフ・チャペック(1887~1945年)は、チェコの国民作家カレルの兄。2人は「チャペック兄弟」として多くの共同作品を残している。本書は、画家でもあったヨゼフが勤務していた新聞社の紙面で発表した反ナチス・反ファシズムの風刺画を紹介しつつ、民主主義のために命を懸けて戦ったその生涯を伝えるビジュアルブック。
書名にもなっている「独裁者のブーツ」は連作で、隣国ドイツがヒトラー率いるナチスによって変貌を遂げ、母国チェコスロバキアが危機的状況に陥る中で発表された。「指揮官の靴をシンボルに、独裁の本質を描く」との意図のもと、ブーツが大衆の頭を踏みつけながら闊歩したり、指揮台の上から整然と並んだ軍靴の行進を眺める様子、そして学者や広告屋、ジャーナリストが集まってそのブーツをせっせと磨く姿などが描かれる。
ファシズムの台頭に危機感を抱いたヨゼフは、ヒトラーが政権を握った2カ月後の紙面で、「歴史の相続人」と題し、ナチスの鉤十字と共産主義の象徴である赤い星が互いに警棒を片手に「ちょっと待って! ひとり半分ずつだよ!」と地球を奪い合っている姿を描いた風刺画を発表。その後もナチスを風刺するイラストを多数描いている。
ヨゼフは、社会主義が人を自由にするどころかむしろ逆にしばりつけることを見抜いていたのだ。やがてチェコスロバキアは解体、「独裁者のブーツ」発表から2年後、ドイツ軍がポーランドに侵攻したその日に、ヨゼフはゲシュタポに連行され、1945年4月に強制収容所内で亡くなる。
世界各地でどこからともなく独裁者のブーツの靴音が聞こえてくる今、本書は改めてその恐ろしさと、自由と民主主義を守るための不断の努力の必要性を教えてくれる。
(共和国 2500円+税)