「独裁者のデザイン」松田行正著
世界中に自国ファーストを主張する政治家が出現している状況を、著者は「独裁者予備軍の存在と独裁者待望論が蔓延している」と危惧する。
本書は、ヒトラーを中心に、ムソリーニ、スターリン、毛沢東など20世紀の独裁者たちが、プロパガンダ(宣伝)を駆使してどのように大衆を躍らせ、抑圧していったのかをデザインの視点から考察したビジュアルテキスト。
人の心を奮わせ元気にする一方で、魂胆を隠してきれいごとに見せつつ、人を傷つけることもできるデザインの力を、独裁者たちは巧妙に使い分けてきた。ナチスの映像を思い出せばわかるように、プロパガンダのデザインは、シンボルマークにはじまり、ポスターなどの印刷物、映像、敬礼や行進の仕方、制服など広範囲に展開される。本書では、独裁者の視線に注目。
ヒトラーのまばたきの少ない目に見つめられた側近は、一緒にいるとその視線に疲れたため、「心霊吸血鬼」と陰口をたたいたという。その目の威力を知ってか知らずか、ヒトラーは凝視し、にらみつける写真を数多く残している。
著書「我が闘争」のカバー写真や、首相に就任した時のポートレート、1932年の大統領選挙に出馬した時のポスター、そしてヒトラー内閣の信任を問う総選挙のポスターなど。ヒトラーの一連の写真を取り上げ、そこに隠された意図と効果を読み解いていく。
他にもナチスのハーケンクロイツと同じ役割をした毛沢東の肖像画など、独裁者たちの足跡をたどりながらプロパガンダ術を解説。一方で、彼らをパロディー化した作品なども紹介しながら、権力側からの強い視線に対する被抑圧者側からの視線の拒否についても論じる。
こんな時代だからこそ、独裁者の出現を許さないよう歴史に学ぼう。
(平凡社 3200円+税)