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「テロリズムとは何か」小林良樹著

 アメリカの女性州知事を狙った国内テロ組織が摘発された。いまやテロはどこにでも遍在している。



「テロ」という言葉はいまや日常化した。テロ組織による事件だけでなく、大量殺人からアルバイトの悪ふざけ動画で店が大損害を被ったときまで「バイトテロ」などと使われる。

 そんな問題提起から始まる本書の著者は、元警察官僚で2016年から19年まで国際テロ担当の内閣情報分析官。いまは明大の特任教授として教壇に立つ。つまり本書は、現場経験をふまえながら学問的な教科書としても書かれたわけだ。

 冒頭ではさまざまな法律におけるテロの定義に触れ、統一的な定義はきわめて困難という。常識的には重大な犯罪だが、いまや国家が主導して他国に特殊部隊等を送り込む「国家テロ」もあるからだ。そこで著者はテロの歴史から説き起こし、テロの形式上の特徴や攻撃手法、資金調達など具体的な分類へと進める。

 またテロ発生のメカニズムやその防止策などを具体的に紹介。世界中でテロが頻発するようになった現代の情勢についても1章をさいて詳しく言及している。

 難解な内容ともいえるが、整理が丁寧な上に「です・ます」の講義調で書かれているので時間をかければ理解は十分。

(慶應義塾大学出版会 2700円+税)

「テロルはどこから到来したか」鵜飼哲著

 著者はフランス哲学に造詣の深い現代思想家。アメリカとの縁は浅い。ところが9・11同時多発テロ後のきな臭い機運が濃厚だった05年、学会で訪米した著者はビザの発行を受けられず、訪れたニューヨークの空港では別室に連れ去られ、さらに地方空港でも誰何された揚げ句、FBIの取り調べを受けたという。著者がその前に書いた論文の英訳がテロに触れたものだったことから、アメリカの反テロ法に引っかかった可能性があったらしい。

 本書はそんな体験をふまえて書かれたエッセー集。著者によれば「テロリズム」という言葉は「一種の罵倒語」。政治的な背景を持った暴力を一言で「犯罪」と決めつけることで、かえって実態が曖昧にされる。そこで立ち止まらず、踏み込んで考えるための本。

(インパクト出版会 2500円+税)

「命を危険にさらして」マリーヌ・ジャックマンほか著 遠藤ゆかり訳

 80年代から現在まで、世代の異なる5人の女性ジャーナリストが本書の著者。その共通点は全員がフランス人であること、そして戦場取材でまさに「命を危険にさらし」た面々だということだ。

 最年長のマリーヌ・ジャックマンは米国留学後に世界を旅し、帰国後、仏大手テレビ局TF1の記者となってベルリンの壁の崩壊を取材。その後、世界各地の紛争の現場を歩いてきた。ほかの面々もパレスチナとイスラエルの武力衝突インティファーダをはじめ、中東やIRAテロ期の英国、ハイチ地震に加えて、オバマ米大統領誕生の大統領選、さらにコートジボワールの争乱、マリの紛争、ISILと戦うイラクのクルド人部隊などを取材してきた面々ばかりだ。

 日本では山本美香さんの殉職で「フリーを見殺しにする大手メディア」への批判が高まったが、欧州ではテロ化した戦争の現実を大手の女性記者たちが体当たりで目撃しているのだ。

(創元社 1800円+税)

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