「風に吹かれて、旅の酒」太田和彦著
居酒屋探訪家が日々の点景をつづるエッセー集。
故郷・松本のタウン誌に寄せた一文がきっかけとなり、恩師を囲んで60年ぶりに開かれた同窓会、60周年を迎えたジャズバーのお祝いの会で聴く80歳の現役ジャズシンガーの歌声、今は亡き忌野清志郎と酒を飲んだ一夜、そして執筆の守り神となったロンドンの泥棒市で買った真鍮(しんちゅう)製の猿の人形など。人との出会いや身近なモノに対する思いまで、日常の風景を著者ならではの語り口で記す。
もちろん、旅先で味わう食や酒の話も欠かせない。あるときは京都・祇園の女性板前の料理をサカナに、そしてまたあるときは、会社員時代に通った銀座の中華料理屋で「セロリそば」を食べるなど、「記事に書く下心なし」の飲み食いもやはり、おいしそう。
(集英社 840円+税)