抑圧の世界地図

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「その虐殺は皆で見なかったことにした」舟越美夏著

 コロナ禍に悩まされる一方、世界のどこかでは、いまも変わらず少数者の抑圧や弾圧が続いている。



「山岳地方に暮らす勇敢な戦士の部族」と呼ばれ、「国を持たない最大の民族」ともいわれるクルド人。中東ではアラブ、イラン、トルコに次ぐ規模の民族だが、居住地域は各国の国境で寸断され、トルコ、シリア、イラン、イラク、アルメニアそれぞれの「少数民族」として暮らしている。どこに行っても抑圧されているわけだ。

 そのクルド人数百人がトルコ南東部の町ジズレで虐殺される事件が起こったのは2016年。トルコでは02年にクルド問題の平和的解決を掲げてエルドアンが総選挙に勝利し、実際に和平プロセスが進んでいた。しかし隣国シリアの紛争が深刻化し、シリアのクルド人勢力に米国製の武器が流れ込んだことからエルドアンは態度を硬化。まもなく徹底的な弾圧が開始され、シリア国境に近いジズレで虐殺が起こる。

 実はここは以前は人口3万人程度の小さな町。しかしトルコ軍の強制移住政策で12万人にまで膨れ上がっていたという。そこで起こった非道な事件は、しかし世界にはなかなか知られない。

 共同通信で世界の紛争地帯を回ってきた著者は義憤を感じ、みずから現地入り。その渾身のルポが本書だ。著者はその後退社して現在はフリー。

(河出書房新社 2400円+税)

「内モンゴル紛争」楊海英著

 中国国内の弾圧問題といえば新疆ウイグル自治区と香港が双璧。しかし実は内モンゴル自治区にも非道な抑圧がある。

 戦後、日本が戦争に敗れて中国大陸から手を引いたあと、新生中国は満州国に進駐し、モンゴルの統治に着手。そのころは民族ごとに自治共和国をつくるソ連型統治を採用していた。

 しかし方針が転換。周恩来は内モンゴル自治政府の指導者ウーランフーに、中国は連邦制ではなく「人民共和国」ゆえ、自治政府は自治共和国ではなく逆に区域自治に格下げすると通告する。

 ここに始まった抑圧はやがて文化大革命を機に漢人対モンゴル人の相互不信に発展。そのまま今日の複雑で陰湿な抑圧になったのだという。モンゴル研究を専門とする文化人類学者の著者がモンゴルの遊牧民の視点と中国側の見方を対照させながらわかりやすく解説している。

(筑摩書房 800円+税)

「ロヒンギャ危機」中西嘉宏著

 ミャンマーといえば事実上のクーデターによる国軍の暴力的な独裁と民主化を求める人々の抵抗で世界の注目を集める。しかし少し前まで少数民族ロヒンギャの弾圧についてはアウン・サン・スー・チー女史もだんまりを決め込んで国際社会の不信を買っていたのは周知の事実だ。

 本書はその理由を歴史や社会背景をていねいに説明して解き明かす。多民族が同居する国で民主化が起こると、多数派の民族が少数派を排斥する動きが出てくることがよくある。特に国内の財政や資源が限られて平等に行き渡らない場合、指導者は民族のつながりに頼って政治的な安定を求めがちになるのだという。ミャンマーではまさにこれが起こり、群衆が町でロヒンギャと誤解した仏教徒を袋叩きする事件などが続発した。

「単純な善悪の構図だけでは理解できない」という著者は京大准教授。

(中央公論新社 880円+税)

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