10年目の3・11
「災害特派員」三浦英之著
コロナ報道の陰でともすれば忘れられがちなあの「3・11」。この10年、被災の記憶はどこにいったのか。
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事故であれ災害であれすばやく現場に飛んでいくのが新聞記者。新人時代に仙台総局に赴任した経験を持つ著者にとって「3・11」は他人事ではありえなかった。
すぐに現地入りした著者は未曽有の混乱の中で“ネタ探し”をしている自分に気づき、疑問と自己嫌悪にとらわれる。2週間後に東京に戻り、やがて被災地の所属記者となって南三陸に舞い戻る。本書はそこから始まる被災報道の長期ルポ。
最初の取材で被災者にカメラを向け、土地の若者になぐられそうになった体験。食事はカロリーメイトとコンビニ弁当だけ。体調を崩しながらも地元民との「溝」を意識して悩む日々。やがて始まった「南三陸日記」への反響。そんなふうに本書の前半は取材記者としての自分についての記述が多い。
だが、後半になると一転して地元の老若男女の体験や思いが主となる。翌日に卒業式を控えていた地元の中学生たちは多くの友人や家族を失いながら、4カ月遅れで卒業式に臨む。自分を除く家族4人をすべて津波で亡くした女性の亡くなった長男は結婚直後で、若妻のお腹には赤ん坊が宿っていた。
そんな話の数々がていねいに記される。著者は現役の朝日新聞記者で、開高健ノンフィクション賞などを受賞したルポライター。
(朝日新聞出版 1700円+税)
「原発事故 10年目の真実」菅直人著
震災当時、日本の政治は民主党政権下にあった。ただでさえ国家統治に不慣れだった政党にとっては不幸きわまりない事態だったが、その中心にいたのが著者だ。
といっても本書は震災当時の回想ではない。震災による深刻な事故を経験し、それまでの容認姿勢から一転して「原発ゼロ」に舵を切った首相がどんな壁に突き当たり、どう抵抗を突き破る努力をしたかが振り返られる。
自民党と経産省と電力会社がタッグを組んだ壁がいかに厚く、日本の電力行政を牛耳ってきたかがくわしく述べられる。
本書の後半は持論の電力改革案や廃炉問題への提言が占める。
(幻冬舎 1300円+税)
「フクシマ戦記 上・下」船橋洋一著
2012年12月、3・11から1年9カ月後に出版された「カウントダウン・メルトダウン」は著名ジャーナリストによる調査報道として話題になった。本書はその後、新たに見いだされた資料や証言などをふまえ、旧稿を下敷きにしながらも大幅な改訂を加えた新著。
当時の民主党政権の中枢をふくめ、現場の人々にくわしく取材した結果を迫真のリポート形式で再現する。アメリカ型の調査報道を地で行く重厚な2巻本。日米両国で発売されるという点も、本書の位置を物語る。
(文藝春秋 各2100円+税)