トランプの黒思想
「トランプ時代の魔術とオカルトパワー」ゲイリー・ラックマン著 安田隆監訳 小澤祥子訳
大統領退任後も不気味な影響力を保持しているといわれるトランプ。その原動力が“黒思想”だ。
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支離滅裂な言動をくりかえしたトランプ。周囲の「まとも」な意見には耳も貸さず、暴走しても誰も止められない。その姿を見て絶賛するのがオルタナ右翼といわれる反動主義者たち。共通するのは陰謀論を信じ、自己中心のポジティブ思考に邁進し、オカルトとサブカルがごちゃまぜになった妄想じみた考えに固執すること。トランプはいわば自己啓発の時代の黒魔術師なのだ、というのが本書である。
著者はなんとデボラ・ハリーがフロントで歌っていたロックバンド「ブロンディ」の初期メンバー。当時は「ゲイリー・バレンタイン」と名乗っていたようだ。
それがいつのまにか、カウンターカルチャーからオカルト思想の研究家になり、西洋哲学や思想史を独学して、ロンドンを拠点に「60年代のダークサイド」などを論じる作家になっていた。本書ではトランプ本人よりも周囲にいたスティーブ・バノンや「オルタナ右翼」のリチャード・スペンサーらの思想と人脈に重点を置き、現代の黒思想の系脈を描き出している。
(ヒカルランド 3500円+税)
「ニック・ランドと新反動主義」木澤佐登志著
トランプ支持者を突き動かす思想が「新反動主義」。民主主義を大衆迎合システムと唾棄し、中央集権を否定して独立した小国家が乱立するのをよしとする。近代の啓蒙思想がめざした理想を全否定するため「暗黒啓蒙」とも呼ばれる。
本書はその思想形成に寄与した3人の人物を論じる。
「ペイパル」の創業者、つまり大物ネット起業家のピーター・ティールは熱心なトランプ支持者だ。
同じくシリコンバレーの起業家カーティス・ヤーヴィンもブログで新反動主義を称える。彼らの賛美の対象がイギリスの異端思想家ニック・ランド。
資本主義の非人間的な搾取の力を逆に加速させることで、初めて近代を内側から「溶解」させることができるという奇妙な思想を奉じている。
著者はネット文化からアングラ、ポップカルチャーなどなんでもござれのブロガーだ。
(星海社 960円+税)
「暗黒の啓蒙書」ニック・ランド著 五井健太郎訳
上掲の本が熱をこめて紹介する異端思想家ニック・ランド。その本人による「暗黒啓蒙」の聖典にあたるのが本書だ。
1962年生まれのランドは英ウォーリック大に哲学講師として25歳で赴任。哲学とテクノロジーとオカルトを混ぜたような思想を奉じる学生団体を指導し、大学当局から目をつけられ、12年後に追われた。その後、上海に移住し、ネットの観光ガイド雑誌のコラムに奇妙な連載を始める。それをまとめたのが本書だという。
米西海岸のIT起業家たちは「自由な経済活動」のみを優先させ、民主主義など不要、国家は企業のように経営されるべきだというリバタリアン思想に傾斜しがち。彼らの新反動主義に理解を示し、理論的な支持を与えたのが本書なのだ。
(講談社 1900円+税)