四半世紀前の実写版をアニメにリメーク
「不思議惑星キン・ザ・ザ」「クー! キン・ザ・ザ」
ふつう、映画のリメークは同じ話を別のキャストや監督で製作したり、よその国で映画化したりすることをいうが、同じ物語を四半世紀も経って同じ監督が、しかも実写をアニメに変えてリメークする。これはかなり珍しい例だろう。
そんなウソみたいなリメーク作品の2本立て興行が、今週金曜に都内封切り予定の「不思議惑星キン・ザ・ザ」と「クー! キン・ザ・ザ」だ。
物語の骨格は同じ。モスクワの街で知り合った老若ふたりの男が、ふとしたはずみで知らない惑星にワープする。一面の砂漠と言葉の通じない異星人。言語は「キュー」と「クー」だけで、前者は「いやだ」の意味だが、あとは全部「クー」の一語ですませるという不条理ワールドだ。
最初の映画化が1986年のモスフィルムによる「不思議惑星――」でこちらは実写。冷戦末期で前年にゴルバチョフが共産党書記長に就任、4月にはチェルノブイリ原発事故が起こるという混乱期の風刺劇としてソ連でヒットした。
他方「クー!――」は2013年にロシアとジョージアの合作で公開されたアニメ。面白いことに、同じ話なのにこれがまるで別物に見えるのだ。
本音をいうと筆者自身は実写版の手作り感に引かれる。世界の映画にローカル色があった時代の感触があるからだ。しかし世代が違うとあまりに古めかしく、コミカルな不条理の風刺が効かないこともあるだろう。アニメ版は日本のアニメと比べても自然な仕上がりで、いまどきの子どもなら迷わずこちらを取りそうだ。
それにしても数十年にわたるリメークを文学でやると改作になる。
むかし教科書の定番だった井伏鱒二著「山椒魚」(新潮社 539円)は初稿時から何度も改筆され、最後は物議を醸したことで有名だ。
なお映画の公開予定はコロナ禍しだいで急変の可能性あり。それこそ「現実のほうが奇なり」なのが現代だ。 <生井英考>