森朗(気象予報士)

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9月×日 2年連続でどこにも行けない夏だったが、この不順な天気では旅行できたとしても楽しめなかっただろう。せめて本で旅行気分を、と手に取ったのが菅家洋子著「降りながら、照る場所へ 沖縄・祈りの地を歩く」(奥会津書房 800円)。沖縄の戦跡を巡る旅の記録だが、簡易平明でときにはユーモアを交えた文章から、かえって戦の悲惨さが伝わってくる。琉球王国の頃から時代の趨勢に翻弄され“降る”と“照る”が混在してきた沖縄の姿に胸を突かれた。

9月×日 陸では落ち着かない天気が続いているが、海では黒潮の大蛇行がもう4年も続いている。陸でも海でも生態系への影響が心配だ。そういえば7月には東京湾にシャチが現れて話題になった。シャチといえば獰猛なイメージが強いが、人懐っこく賢い面もあって、ただのギャングではなさそうだ。

 東海大学海洋学部の村山司教授の「シャチ学」(東海教育研究所 2750円)では、そんなシャチの生態や、他の海棲哺乳類との関係、そして驚くべき知能の高さが、素人にもわかりやすく解説されている。容易に捕獲して水槽で飼育して観察、というわけにはいかない大型の生物にもかかわらず、長年にわたってイルカの感覚能力、行動特性、認知能力を研究してきた専門家ならではの奥深い見識はさすがだし、水族館での実験や研究の様子なども非常に興味深い。また、アイヌ民族によってレプンカムイ(沖の神)と神格化されるなど、人間社会との関係性にも話が及び、海とそこに棲む生き物への親近感がますます湧いてくる1冊だ。

9月×日 マスクをしただけで人の感情が読み取れないご時世。どうして人間だけ表情が発達したのだろうか。以前から不思議だった顔の疑問に答えてくれたのが馬場悠男著「『顔』の進化」(講談社 1100円)。人と動物の顔の違い、猫がかわいい理由、人類の顔の進化の過程など、いろいろ納得。人類の顔が将来どう変化するのかは、読んでのお楽しみ。

【連載】週間読書日記

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