下村敦史(作家)

公開日: 更新日:

8月×日 自身の新刊「アルテミスの涙」(小学館)と文庫化「絶声」(集英社)の再校ゲラを仕上げる。アンソロジー用の短編を2編書き上げ、KADOKAWA、徳間書店、PHP研究所でそれぞれ連載中の原稿を何とか締切前に脱稿。少しゆとりができる。

8月×日 織守きょうや著「花束は毒」(文藝春秋 1870円)を読む。結婚を控えた男性のもとに「結婚をやめろ」と脅迫状じみた手紙が何通も届き、男性の知人である「僕」に依頼された探偵の女性が真相を探る――という物語だ。

 誰が何のためにそのような手紙を送っているのか。

「罠、また罠」「100%騙される戦慄!」と銘打たれているとおり、「僕」がたどり着いた真実はあまりに恐ろしく、背筋が凍るもので、注意深く真相を推理していても裏切られてしまう。人の心の奥にひっそりと息づく仄暗い感情を炙り出すような戦慄だ。“あのような妄想”は誰しも一度はしたことがあるかもしれない。だからこそ、それを突きつけられることが怖いのではないか。

 果たして読者は――自分なら知ってしまった真相をどうするのか、容易に答えが出せない。

8月×日 今村昌弘著「兇人邸の殺人」(東京創元社 1870円)を読む。ベストセラー「屍人荘の殺人」シリーズの3作目だ。特殊で異様な環境下でありながらも、ロジカルに景色を反転させていく手腕は見事の一言。

8月×日 発売前から大注目されていた知念実希人著「硝子の塔の殺人」(実業之日本社 1980円)を読みはじめる。序盤から本格ミステリーの傑作の気配が漂っている。前述の3作品はどれも今年のミステリーランキングで話題をさらいそうな傑作群である。ミステリーファンなら必読の作品だ。

8月×日 自身の執筆に追われ、読書の時間が限られている最近は、交流のある同業者の新刊を最優先で読み、続けて話題作、そして、その他の小説へ――というサイクル。

 もっと小説を読まねば、と読書量不足を痛感する今日この頃だ。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭