永井義男(作家)
8月×日 C・キャシディーほか著「とんでもない死に方の科学」(梶山あゆみ訳 河出書房新社 1760円)はさまざまな死に方の思考実験で、似通った実例も紹介されている。
「潜水艇で深海に潜っているときに外に泳ぎに出たら」、巨大な水圧に押し潰されて即死する。だが、意外とぺちゃんこにはならず、ほぼ人の形をたもっているという。理由は、人体の大部分は水分でできているから。
「次の月着陸船にこっそり乗りこんだら」、もちろん命はないが、即死ではないという。理由を知りたければ、本書をお読みください。
とにかく、面白い。
8月×日 東海林さだお著「マスクは踊る」(文藝春秋 1540円)は、エッセー「男の分別学」(オール讀物)と漫画「タンマ君」(週刊文春)が収録されている。それぞれ連載中に読んでいるのだが、改めてクスリと笑いながら読んだ。
単行本化に際して掲載された、認知症の専門医長谷川和夫氏との対談が興味深い。読み終えたとき、心が安らいでいるのに気付く。対談の傑作といってよかろう。
8月×日 イギリスの外交官アーネスト・サトウの回想録「一外交官の見た明治維新(上・下)」(坂田精一訳 岩波書店 各924円)を読み返すことにした。
歴史研究者のあいだでは、回想録のたぐいを利用する際は用心すべきとされている。というのは、記憶違いはもちろんのこと、記憶の合理化が随所にあるからだ。
同書には、サトウが文久2(1862)年に横浜に来日してから、明治2(1869)年に日本を去るまでの見聞が記されているが、原本がイギリスで刊行されたのは1921(大正10)年である。およそ半世紀を経て、幕末維新期の日本が執筆・刊行されたことになろう。ということは、記憶違いや記憶の合理化が多いのではなかろうか。
いや、同書は第一級の史料である。というのは、サトウは在日中、克明な日記をつけていて、回想録の執筆にあたっては日記を参照していたのだ。