安倍龍太郎(作家)

公開日: 更新日:

10月×日 某社のweb配信企画で澤田瞳子さんと対談する。澤田さんは「星落ちて、なお」(文藝春秋 1925円)という河鍋暁斎の娘とよ(画名暁翠)を主人公とした小説で、直木賞を受賞されたばかりである。

 私も長谷川等伯という戦国時代の画家を描いた「等伯」(文春文庫 上825円、下770円)で直木賞をいただいているので、こうした企画が組まれたらしい。 

 澤田さんは10年前に「孤鷹の天」で中山義秀文学賞を受賞されたが、奇しくもそのとき、私は選考委員をつとめていた。 

 中山義秀賞は聴衆の前で選考会をする日本で唯一の文学賞で、選考する側も見識が問われる真剣勝負である。

 その席で私は澤田さんを評して「現代に紫式部が現れた」と言った。作品の質の高さに打たれて思わず口走ったのだが、彼女はその後も順調に成長と活躍をつづけ、わずか10年で直木賞の受賞に至ったのだった。

10月×日 畏敬する植木雅俊氏が訳と解説をほどこした「日蓮の手紙」(KADOKAWA 1540円)を手に取る。植木氏はサンスクリット語で書かれた「法華経」などの原典を日本語に訳し、めざましい成果をおさめておられるが、本書でも日蓮の手紙に込められた相手への思いやりや労わり、悟りに向かわせたいという配慮をあます所なくとらえている。

 落ち込んだときに読むとこちらも励ましてもらえるので、折に触れ手に取っている。

10月×日 いささか古いが(1967年刊)、島田虔次著「朱子学と陽明学」(岩波書店 880円)は古典的な名著である。

 明治維新後、日本は「脱亜入欧」を目ざしたせいか、西洋哲学は学んでも、東洋哲学は等閑視してきた。

 東洋哲学の中心をなすのが朱子学と陽明学で、その本質を知らなければ日本人の生き様や東アジア諸国のことは分からないと言っても過言ではない。ご一読をお勧めしたい。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  3. 3

    大谷も仰天!佐々木朗希が電撃結婚!目撃されたモデル風美女に《マジか》《ビックリ》

  4. 4

    井上中日が「脱立浪」で目指す強打変貌大作戦…早くもチームに変化、選手もノビノビ

  5. 5

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希の「豹変」…記者会見で“釈明”も5年前からくすぶっていた強硬メジャー挑戦の不穏

  2. 7

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」

  3. 8

    “透け写真集”バカ売れ後藤真希のマイルドヤンキーぶり…娘・希空デビューの辻希美とともに強い地元愛

  4. 9

    爆笑問題・太田光のフジテレビ番組「休止の真相」判明 堀江貴文氏“フジ報復説”の読みハズれる

  5. 10

    バンテリンドームの"ホームランテラス"設置決定! 中日野手以上にスカウト陣が大喜びするワケ