「院内刑事」濱嘉之著
コロナ禍で病床が逼迫し、一般の人たちが自宅療養を強いられている中、一部政治家などが優先的に入院をしていたことにネット上で非難が寄せられていた。また、収賄などの疑惑をかけられた政治家が体調不良を理由に病院へ避難するなど、政治家と病院をめぐっては以前からなにかと取り沙汰されていた。
本書は、政治家が多く利用する大病院でリスクマネジメントに携わる元警視庁公安OBを主人公とする医療+警察ミステリー。
【あらすじ】廣瀬知剛は45歳。警視庁入庁後、主に警備公安畑を歩み、吉國内閣官房副長官が警備局長時代にはその懐刀といわれていたが、キャリアのミスの責任を負わされ退職。その後、東京都総合病院の医療安全推進アドバイザーを務めていたが、その力量を買われて、現在は成田や羽田に到着したVIPに対応すべく開設された医療法人社団敬徳会川崎殿町病院のリスクマネジメントの責任者となっていた。
その廣瀬のもとに浅野財務大臣が飛行機内で脳梗塞を発症し、特別ルートで同病院に搬送されたとの知らせが届く。迅速な対応によって浅野は一命を取り留めたが、検査の結果、薬物による故意の発症であることが判明。次期総理と目される浅野の病状は徹底的な情報管理下に置かれ、廣瀬は秘密裏に捜査を始める。
白羽の矢が立ったのはやはり元公安で、現在は地方の閑職に追いやられている秋本。秋本は浅野が薬を飲まされた可能性の高い福岡のクラブに潜入し情報収集を始めるが、背後には予想外の闇が広がっていた……。
【読みどころ】著者自身、廣瀬と同様に公安畑で長年活躍していただけに、情報管理をはじめ細部までリアリティーに裏打ちされ、政治と医療にも鋭いメスが入れられている。 <石>
(講談社 715円)