「それでも、医者は甦る」午鳥志季著
SFなどのタイムトラベルものの一種にタイムリープがある。基本的には、自分の意識のみが過去や未来に移動することをいう。日本では筒井康隆の「時をかける少女」が有名だ。ケン・グリムウッドの「リプレイ」もタイムリープものの傑作だが、主人公は時間の循環にとらわれ、7回も人生を生き直すことになるが、本書は、258回もタイムリープを繰り返す若き研修医の話だ。
【あらすじ】この春に国家試験に合格し、研修医としての激務をこなしている志葉一樹。口癖は「医者ってクソじゃね?」で、なぜ医者になったのかと問われれば、「もちろん金のためさ。あとは偉くなってチヤホヤされたかったってのもあるかな」といってはばからない、ダメ研修医。研修先は心臓外科。志葉が担当している患者の中に湊遥という高校3年生がいた。
彼女は高安動脈炎という難病を患っており、近く心臓手術を行う予定だ。かわいい顔をしているが、志葉を「ヤブ医者」と言ってしょっちゅう悪態をつく。それでも不安は隠しきれず、そんな彼女に志葉は「俺は、お前を助ける」と約束する。
いざ、手術の日を迎える。しかし、あろうことか手術は失敗。遥は命を落としてしまう。あまりのショックに慟哭する志葉だが、気づくと手術前日に遥と会っていた病院屋上にある神社の前にいた。なんと時間が戻ったのだ。今度こそ遥を助けようとあらゆる手段を講じるが、258回のタイムリープはことごとく失敗に終わる。絶望に陥る志葉だが、ある重要なことを見逃していたことに気づく……。
【読みどころ】寓話的な装いの中に、医療崩壊の危機に立つ医療の現場と医者の使命とは何か、という大きな命題が秘められた問題作。 <石>
(KADOKAWA 737円)