「医学のたまご」海堂尊著
海堂尊といえば、「チーム・バチスタの栄光」や「ブラックペアン1988」などのシリアスな医療ミステリーのイメージが強いが、本書は中高生向けに書かれたもので、ごくフツーの中学生がひょんなことから大学の医学部へ飛び級して騒動を巻き起こすという異色作。
【あらすじ】桜宮中学1年生の曾根崎薫は、3学期も半ば過ぎたある日、校長室へ呼び出された。部屋には校長の他に見知らぬおじさんがいた。
聞くと、先日の潜在能力試験で薫が全国1位になったという。知らないおじさんは東城大学医学部の藤田教授といい、薫を医学部で学ばせたいというのだ。薫の両親は薫が生まれた直後に離婚。父親に引き取られた薫は以後、男手一つで育てられている。
父の伸一郎はゲーム理論の世界的権威で、今は薫を日本に残してMITで研究している。実は、くだんの潜在能力試験の問題は伸一郎が作ったもので、何も知らない父は薫をその試験台にしていた。つまり、薫は試験の中身を事前に知っていたのだ。
大人たちを前に今更打ち明けるわけにもいかず、4月から医学部へ行くことになってしまった薫。しかし、薫はいまだにツルカメ算もできずに英語もローマ字読みというありさま。それでも同級生の医学オタクと英語ペラペラの帰国子女の助けを借りて、薫はなんとか大学の研究員として食らいついていく。
全くの偶然から薫たちは思わぬ大発見をしてしまい、これぞチャンスと思った藤田教授は内外に大々的なアピールを仕掛けるのだが、その実験結果には致命的な欠陥があったのだ……。
【読みどころ】かなり破天荒な設定ではあるが、医学界内部の熾烈な業績争いが描かれており、医療の本質とは何かという真摯な問い掛けもなされている。 <石>
(KADOKAWA 792円)