「草々不一」朝井まかて著
忠左衛門は、はやり病で妻の直を失う。将軍の警固を担当する徒組だった忠左衛門が隠居して数カ月後のことだった。四十九日が過ぎたある日、隠居家を訪ねてきた息子の清秀が、直の遺品の中から出てきたと、忠左衛門宛ての文を差し出す。忠左衛門は「没字漢」で、平仮名はともかく漢字の読み書きがほとんどできない。
「余人、開けるべからず」と書かれた文を尻込みする清秀に読ませると、感謝の言葉に続き「じつは清秀につきまして、衷心よりお詫びをせねばならぬことがござります」としたためられていた。清秀もさすがに先を読むことをちゅうちょ。不義密通の告白かと動揺する忠左衛門は、文を読むために町人の子どもが通う手習い塾に入門する。
身分としきたりに生きる江戸の男たちを描く時代小説集。
(講談社 968円)