「銀の猫」朝井まかて著

公開日: 更新日:

 江戸時代の平均寿命は32~44歳といわれている。現代から見るとかなり短いようだが、これは0歳児の平均余命で、乳幼児の高い死亡率が全体を引き下げているのだ。事実、江戸時代でも60歳の平均余命はほぼ14歳で、60歳まで生き延びた男女は共に75歳前後まで生きる人が多かった。となれば、江戸時代においても高齢者介護の問題は存在する。

 本書の主人公は、金持ちの身内に代わって年寄りの介護を専門とする「介抱人」を職業とする女性の物語である。

【あらすじ】お咲は19歳で裕福な商家に嫁いだが、妾奉公をくり返す佐和を母に持つがゆえに姑には疎まれていた。それでも舅の仁左衛門には目をかけられていて、仁左衛門が病に倒れたときにも率先して介護に励んだ。しかし、佐和が舅に金を無心したために婚家を追い出されてしまう。仁左衛門は借金ではなくあげたものだというが、母の行状を恥じたお咲は金30両を返済することを夫に約す。これだけの大金を普通の勤めで返すのは難しい。

 そこで割のいい介抱人を買って出たのだ。舅の介護の経験があるお咲はよく気が利き、方々から引く手あまたの人気で、難しい顧客の要望にもよく応えていた。なかには評判を聞きつけた武家からの依頼もあり、お咲は介抱人の役割をより強く自覚していく。そこへお咲が勤める口入屋、鳩屋に貸本屋の佐分郎太が訪ねてきた。貝原益軒の「養生訓」を真似て「誰もが楽になる介抱指南書」を作りたいので、お咲らに協力してほしいというのだ――。

【読みどころ】本書の底に流れているのは佐和とお咲の母子の確執だ。「孝」に縛られていた介抱から新たな道を見いだしていくことで、お咲の母への思いも変化していく。作者の腕の冴えが光る逸品。 <石>

(文藝春秋792円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    相撲協会の逆鱗に触れた白鵬のメディア工作…イジメ黙認と隠蔽、変わらぬ傲慢ぶりの波紋と今後

  2. 2

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    《2025年に日本を出ます》…團十郎&占い師「突然ですが占ってもいいですか?」で"意味深トーク"の後味の悪さ

  5. 5

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  1. 6

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  2. 7

    結局《何をやってもキムタク》が功を奏した? 中居正広の騒動で最後に笑いそうな木村拓哉と工藤静香

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 9

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 10

    高校サッカーV前橋育英からJ入りゼロのなぜ? 英プレミアの三笘薫が優良モデルケース