「『空気』の研究」山本七平著/文春文庫
1977年刊の同書の文庫版(2018年)。なぜ、今この本を紹介するかといえば、近い将来、この本が再び脚光を浴びると考えるからだ。コロナ騒動の初期の頃、「ペスト」(カミュ)が売れたのと同様の現象がコロナ騒動収束後に発生すると考える。本書は、誤りだと後に分かっても「ああいう決定になったことに非難はあるが、当時の会議の空気では……」と「空気」に抗えなかったことを正当化することと、なぜ「空気」が生まれるのかについて考察する。
なぜ敗戦直前の1945年4月に、どう考えても無謀な愚策である戦艦大和を沖縄へ向かわせたのか、の分析もされている。
〈大和の出撃を無謀とする人びとにはすべて、それを無謀と断ずるに至る細かいデータ、すなわち明確な根拠がある。だが一方、当然とする方の主張はそういったデータ乃至根拠は全くなく、その正当性の根拠はもっぱら「空気」なのである。従ってここでも、あらゆる議論は最後には「空気」で決められる〉
そのうえで、こうした決定について、海も船も空も知り尽くした専門家だけが存在し、素人の意見が介入していなかったと言及。1944年7月、サイパン陥落の際は到達までの困難さと、電力などが無傷でない限り大和を出撃させても意味がないため出撃させなかった。それなのに、この時出撃させたのは〈サイパン時になかった「空気」が沖縄時には生じ、その「空気」が決定したと考える以外にない〉。
なぜ日本では「空気」が重視されるのかは〈日本には「抗空気罪」という罪があり(中略)「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である〉と説明。
これ、今のコロナ騒動と実に似ている。結局、自粛を続け、人流を抑制し、マスクをし、飲食店の時短を行い、スタジアムを無観客にすればコロナを抑えられると専門家は主張し、「ゼロコロナ」を目指した。各地の知事は緊急事態宣言の発出を要求した。
しかし、第5波は人流が多かったにもかかわらず収まり、第6波は8割以上がワクチンを2回打ち、ほぼ全員がマスクをしていたのに、史上空前の陽性者数を出した。
ツイッター上では私も含めたマスクや自粛を無意味と考える少数派が「専門家の主張する対策はどれも効果がない。ウイルスはマスクの網目は通り過ぎるし、ゼロコロナは無理」と主張。第5波、第6波についてデータを出して説明しても「コロナは怖いんだ! マスクは効果がある! このバイオテロリストめ!」の大反発を食らうだけだった。しかし、我々が正しかったことがもうすぐ分かることだろう。その際、本書は再び注目される。
★★★(選者・中川淳一郎)