「リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録」秋山博康著/小学館
「徳島・淡路父子放火殺人事件」の凶悪犯である小池俊一(当時40歳)を追い詰めるため、「おい、小池!」のポスターを作った元徳島県警の刑事・秋山博康氏の著書だ。同氏はテレビの「警察密着」的な番組にも登場し、ヤクザと見間違えるようなリーゼントのヘアスタイルで知名度を高めた。
そんな同氏の42年間の警察人生を記録した本なのだが、とにかくエッセーとして面白い。「ワシ」と自身を表現するのだが、人々の生死を左右する刑事という任務に就きながら、時に緊迫感のある話を書いたと思えば、アホ過ぎるエピソードもあり、実にテンポがいい。「ニセ秋山刑事、現る」は本書でも最大級のアホ回である。本当は引用したいところだが、長いので私が要約する。
〈ワシは協力者を増やしまくろうと名刺を配りまくっていた。ある日、スナックのママがワシの元を訪れるも「アンタ誰?」と言われた。とある男が、ワシの名刺を使い彼女の店で散々ツケで飲み食いしまくった挙句、結婚をほのめかし肉体関係を持ち散々貢がせた。すっかり「ニセ秋山刑事」の言いなりになった彼女が切羽詰まって署を訪れたのだった〉
その後、著者はこのサギ男を捕まえ、弁済させ、反省させるに至るのだが、その後ママは喜びトロンとした目で著者の顔をのぞき込み「アタシ、本物の秋山刑事に恋すればよかったわぁ……」と言ったのだという。
終始こんな調子だが、ホロリとさせたり、市民の安全を守る刑事としての真剣な主張もあったり、改めて治安を守る日本の警察官に感謝をする気持ちにさせてくれる。
著者はかなり破天荒な人物であるが、時に真面目な面も見せる。警察学校に入ってから半年ほどたった頃の「鬼瓦教官」とのエピソードにこうある。
〈未成年のワシはお茶を飲んでいたが、ビールを飲んでいい気分になった教官は「お前は立派な刑事になるんや。被害者のために捜査をするんや」と熱く語り出した〉
多分、これは嘘である(笑)。著者も酒を飲んでいるだろう。モノカキがあえて「未成年のワシはお茶を飲んでいたが」などと書くのは、伏線を張っているのだ。「教官が酒を飲んでいる」となった時に「おまえ、未成年だろ? その時何飲んでいたの?」というツッコミをかわすために「ワシはお茶を飲んでいた」と入れたのではなかろうか。
この予想が正しいかは分からないが、とにかく久々に「面白すぎる本」を読んだ。
(選者・中川淳一郎)★★★