「『廃炉』という幻想」吉野実著
当初、国と東京電力は福島第1原子力発電所の廃炉まで「30~40年」とし、その工程を示した。しかし、2017年度に着手するはずだった1号機の使用済み燃料の取り出しもいまだ手つかず。メルトダウンで溶け落ちた燃料にいたっては取り出す方法すら見当がついていない。
一方、海洋放出が取りざたされる処理水問題。原子炉建屋への地下水の流入による汚染水の増加を止めるため、安倍政権(当時)が凍土壁を導入したが、期待された効果を得られなかった。凍土壁ではなく遮水壁をつくっておけば、ここまで処理水が増えることもなかったという。それでも国も東電も「約30年で廃炉」という旗印を変えていない。国と東電が「できる」という幻想を広め続ける廃炉の現在と現実を突き付ける警世の書。
(光文社 1210円)