「首都直下地震と南海トラフ」鎌田浩毅氏
今月1日に宮城県沖でマグニチュード6・8の地震が発生し、東京でも揺れた。「久しぶり」と思った人が多いのではないだろうか。しかし、気象庁によると、これは今年936回目の震度1以上の地震だ。日本はもとより「地震大国」と言われるが、地球全体で発生する地震の約15%は日本および日本の近海が震源だそうだ。
「1000年に1度の大地震だった東日本大震災から10年。あの地震の後、日本列島が東側に5・3メートル移動した上、地下にある硬い岩盤のあちこちに歪みが生じ、その歪みを解消しようと『活動期』に入っているんです。日本には活断層が2000本以上あり、今、いつ大きな地震が起きてもおかしくない状況です。首都直下地震は明日かもしれない。さらに地震と津波が襲ってくる南海トラフ巨大地震は2030年から40年の間に確実に起きます」
著者は、地震と火山を専門とする地球科学者。京都大学で教壇に立ち、講義には数百人が集まる人気ぶりとあって本書も読みどころたっぷりだ。地球は十数枚のプレート(厚い岩板)で覆われており、そのプレートが独立して運動することで、さまざまな地質現象が起きる。そんな地震のメカニズムから、今後起きる地震災害を知って正しく恐れ、生き延びるためのノウハウまで、平易な文章でつづられている。
「まず懸念されるのが首都直下地震です。首都圏も東北地方と同じ北米プレート上にあるため、活発化した内陸型のマグニチュード7クラスの地震が突然起こる可能性が十分にあるのです。国の中央防災会議の試算では、最悪の場合、2万3000人の犠牲者が出て、全壊および焼失家屋61万棟、95兆円の経済被害と想定されています」
古くは1855年に東京湾北部でマグニチュード6・9の安政江戸地震が発生し、4000人以上の死者が出た。明治以降では1923年の関東大震災。死者・行方不明者は推定10万5000人。首都直下地震はそれらの再来となるわけだが、町の規模も人口も大幅に増えている。背筋が寒くなるが、さらに凄惨な事態になるのが南海トラフ巨大地震だという。
「フィリピン海プレートの終着点の南海トラフ沿いで90年から150年間の周期で地震が発生していますが、3回に1回は超巨大なんです。1361年の正平地震、1707年の宝永地震、この例でいくと、これから10年ほど過ぎたらマグニチュード9・1に襲われると予測されます。被災地は首都圏から九州まで。日本の人口の約半数の6000万人が被災し、死者が32万人出る。経済被害は220兆円。国の年間税収の約3倍以上に該当します」
そうなると、もはや日本が壊滅状態になること必至だ。
「でも、今から準備すれば8割は被害を減らせます」と著者。大きな揺れの数分後に最大34メートルの津波が来ることが分かっている。よって一刻も早く10階以上の高さに上がれる避難路の整備が必要だ。
「個人レベルでは、耐震基準が義務付けられた1981年以前の建物や木造家屋には耐震補強をする、本棚や食器棚などの家具やピアノを倒れないように留める、などで命を守れます。そのうちに、ではなく今日すぐにも実行してください」
地質学では「過去は未来を解く鍵」と言う。過去の噴火の緻密な研究により、本書には「富士山はいま噴火のスタンバイ状態」とも断言されている。
他にも、世界で自然災害が増えていることや温暖化問題の本質などについて、興味深い話が詰まっている。
(エムディエヌコーポレーション 980円)
▽かまた・ひろき 1955年、東京生まれ。京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授(地球科学)。通産省(現・経済産業省)を経て、本年3月まで京都大学大学院人間・環境学研究科教授。「地震はなぜ起きる?」「理系的アタマの使い方」など著書多数。