「月夜」 szuna著
SNSで人気の写真家による作品集。
ページを開くと、東京の夜景が見開きページいっぱいに広がる。中心からやや左上にはライトアップされた東京タワー、その向こうには東京湾の暗がりを挟んで月島や豊洲、お台場の明かりだろうか。
ビルやタワーマンションのひとつひとつの窓から、蛍光灯から暖色まで、さまざまな明かりがこぼれ、宝石のように輝き、その足元を車のヘッドランプの光跡が光の川となって流れている。
その光景に東京の夜はきれいだなと、改めて思う。
隅田川を高所から俯瞰した作品では、ライトアップされたそれぞれの橋が競演。こぼれ落ちた光が水面をさまざまな色に染める。
かと思えば、右ページにはスカイツリーが、左ページには東京タワーと、東京の新旧のシンボルが仲良く並んだページもある。こちらは一転して、天を突くようにそびえるタワーを足元から見上げている。
さらにページをめくると、道を走る車の光跡がここでもタワーの足元を流れている。
巧みなレンズ効果と視点によって、レインボーブリッジと東京タワーが作り出す不思議な作品は、SF映画に登場する近未来の都市の光景のようだ。
他にも東京国際フォーラムのガラス棟や浅草寺、横浜みなとみらい、晴海客船ターミナルの海岸べりの人工池に設置されたモニュメント「風媒銀乱」など、撮影地の紹介はどこにも記されていないが、誰もが知る東京や横浜の名所を独自のアングルで見たこともない風景に仕立て直す。
これらの作品に人は写っていないが、ひとつひとつの明かりが、そして光跡が人の存在を感じさせる。明かりのもとには必ず人の営みがあるからだ。
大都会の夜景は、一見すると冷たいようでいて、優しさを伴う。
上空から都市を鳥瞰していたようなレンズは、ページが進むにつれて、都市の内部に分け入り、歌舞伎町やゴールデン街、アメヤ横丁の路地など、東京の深部を映し出す。ここにも客を呼び込む赤ちょうちんや行灯看板などの明かりが満ちている。
かと思えば、最先端のビル群と鳥居という東京ならではのツーショットもある。
その書名から、夜景ばかりかと連想していたが、五輪のときのものであろうか青空を背景に飛ぶブルーインパルスと東京タワーや、スカイツリーを寿いでいるかのような虹など、昼間の風景もある。
ほかにも夜桜と浅草寺、雨上がりの水たまりに映える雷門、雪にけぶる仲見世など浅草寺の四季をとらえた作品や、横浜の赤レンガ倉庫やランドマークタワーの背後に迫る大きな富士山など、都会の見慣れた風景の中に埋もれた「絶景」を見つけ出して、切り取った作品が並ぶ。
手に取った後、あなたも無性に写真が撮りたくなるはず。そんな写真集だ。
(KADOKAWA 2090円)