「とびだせ!長谷川義史ぼくの歩いてきた道」 長谷川義史著
絵本作家・長谷川義史氏の絵本原画をはじめ、イラストレーションやスケッチ、立体作品まで、その創作の歩みを集成した豪華図録。
その名に覚えはなくとも、子育て中や、子育てを経験した人ならそのインパクトのある作品にどこかでお目にかかっているはず。
というのも氏がこれまでに世に送り出した絵本は、なんと150冊以上にもなるという。
小さい頃から絵を描くことが好きだった氏は、グラフィックデザイナーとして活躍していたが、いつしか自分で考えたテーマを、物語と自分の絵で伝える絵本に魅力を感じ、自分でも描いてみたいと思うようになった。そのきっかけをつくってくれたのは妻だった。関西の人気劇団に夫を売り込み、手掛けた公演ポスターが出版社の編集者の目に留まり、絵本作家への道が開けたのだ。
その絵本デビューのきっかけとなり、1992年から現在も手掛ける「南河内万歳一座」の公演ポスターをはじめ、グラフィックデザイナー時代の作品、そしてデビュー作「おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん」など、初期作品が巻頭を飾る。
この長いタイトルのデビュー作は、「おじいちゃんのおとうさんは、どんな人?」という5歳の男の子の問いかけによって、時がどんどんさかのぼり、おじいちゃんのおじいちゃんが次々に現れる内容だ。
素朴な筆づかいで描かれるユニークな人物たちが画面からあふれ出てくるようなダイナミックな作風で、一度見たら忘れられないインパクトがあり、そしてどこか優しさと温かみを感じる。
製作開始から出版まで、3年の歳月がかかるほどの難産だったそうだが、その完成にいたるまでの過程が分かるような下絵や習作なども収録。
他にも、被差別地区を舞台に差別や貧困、戦争の被害に負けずにたくましく生きる人々を描き講談社出版文化賞絵本賞(現・講談社絵本賞)を受賞した2作目の「おたまさんのおかいさん」(おかいさん=おかゆ)や、本人いわく「これまでの砂糖菓子のような絵本の世界を、駄菓子の世界に一変させた」というユーモア爆発の自信作「スモウマン」など、並んだ作品が読者をたちまち長谷川ワールドへと引き込んでいく。
早世した父親との思い出や、女手一つで育ててくれた母との日常などの実体験をもとに描かれた「てんごくのおとうちゃん」や「おかあちゃんがつくったる」などの絵本の原画をはじめ、3人の息子の出産に立ち会ったエピソードをつづった絵日記や、雑誌に連載中のイラストエッセーにコマ漫画、レギュラー出演していたテレビ番組内で披露した街歩きスケッチの原画などの作品に加え、アトリエでの創作風景や、生まれ育った大阪の藤井寺散策などの写真も網羅。
多角的な編集で個性的なその作品世界の隅々まで堪能した読者は、心の中に眠っていた少年が呼び起こされるに違いない。
(求龍堂 2970円)