「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」藤原綾著/集英社
雑誌連載の取材をさせて欲しいと連絡があったのは2年前だったと思う。著者はフリーランスの編集者兼ライターで、バツイチ・子なしの42歳の女性だ。
インタビューを受けた時点で、著者はまだ移住先を迷っていた。私は中高年から移住の相談を受けた時には、基本的に大都市近郊のトカイナカを推奨している。田舎のほうが、住宅費が格段に安く、自然環境も豊かというメリットはあるのだが、田舎特有の濃すぎる人間関係に中高年は、なかなか馴染めないからだ。
ただ、著者が鹿児島という移住先のターゲットを明確に持っていて、むしろ人付き合いを望んでいたこと、そして何より42歳と若かったことから、私は鹿児島への移住を支持した。その時の経緯は本書にも書かれているが、私はその後、著者がどう行動したのか知らなかったのだが、本書で、その後のすべてを知った。
多少の紆余曲折はありながらも、著者は鹿児島への移住を断行し、「贅沢な」暮らしを手に入れた。毎日温泉に入れる贅沢、毎日採りたての野菜が食べられる贅沢、水道水をがぶがぶ飲める贅沢、広い部屋に住める贅沢。田舎暮らしは、けっして楽ではない。ただ、都会ではなかなか手に入らない贅沢が味わえるのだ。
本書を読んで意外だったのは、東京への往復が、さほど大きな負担にはなっていないということだ。LCCを使えば、運賃はそれほど高くないし、編集者という仕事でも、東京での仕事をまとめてこなすことができるのだ。それどころか、私は絶対に無理だと思っていた東京のカメラマンまでが、鹿児島移住をしているという事実を知って、地方移住のハードルはそんなに高くないのかもしれないと思うようになった。
著者は本業がライターだから、文章は上手だし、事実を具体的に書いているので、とにかく分かりやすい。しかも現在進行形のドキュメントだから、情景が手に取るように浮かんでくる。
人生の終盤をどこで過ごすのかというのは、老後生活の幸福を左右する最大の決断だ。死ぬまで大都市生活を続けることに疑問を持つ人には、とても有益な本だと思う。一読をお勧めしたい。
★★半(選者・森永卓郎)