「障害者支援員もやもや日記」松本孝夫著/三五館シンシャ
三五館シンシャという出版社は、さまざまな職業に就く人が、自分の仕事の実態を赤裸々に語る「日記」シリーズを出している。本書はその最新作だ。著者は、障害者支援員を8年間続ける78歳、現役の障害者支援員だ。
私は仕事柄、多くの職業の実態を見聞きしてきたが、精神分野の障害者支援員という職業は、エアポケットに入っていた。それ以前に、精神分野の障害が、①精神障害、②発達障害、③知的障害に分かれることさえ十分知らなかった。著者が勤めるグループホームは、3つのタイプの障害者をすべて受け入れている。
主として高齢者を相手にする介護施設と、精神分野の障害者施設は、性格が大きく異なっている。介護を受けるお年寄りは、体力があまりないので、危害を加えられる恐れが小さい。ところが、精神分野の障害者は、肉体的に問題がない場合が多いので、支援員に対して、噛みついたり、殴ったり、全力疾走で逃走したりする。また、普段はおとなしくて、やさしいホームの利用者が、突然奇行に走って、手が付けられなくなる。そのきっかけや動機は、まだほとんど解明されていない。だから精神的にも肉体的にも、とても厳しい仕事なのだ。
ただ、本書を読んで思うのは、著者のライフスタイルが、これからの老後生活のモデルケースになっていくのではないかということだ。
政府は、「生涯現役社会」を標榜している。著者も70歳を迎えて、ほかに選択肢がないからこの仕事を選んだ。ところが、週3日の泊まり勤務に加えて、日曜日も出勤して、報酬は月額20万円あまりと、生活するにはギリギリの水準だ。年金が削減され続けるなかで、こうした厳しい老後を選ばざるを得ない人が、今後は、爆発的に増えていくのではないだろうか。
ただ、それでも、本書にはホームの利用者と著者を含むスタッフとの愛情あふれる人間関係が描かれていて、その部分では、とても救われる。
著者がもともとライターをしていたこともあるのだろう。本書は、文章がきちんと刈り込まれていて、とても読みやすい。自分自身の老後生活を具体的にイメージするためにも、ぜひ一読をお勧めしたい。 ★★半(選者・森永卓郎)