テクノロジーを現実化させてきた預言書SF本特集

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「古びた未来をどう壊す?」宮本道人著

 映画「2001年宇宙の旅」に登場した人工知能「HAL9000」のような対話型AIをはじめ、空飛ぶ自動車や腕時計型通信機など、かつてSF小説で描かれ夢のように感じたテクノロジーは次々と現実化している。まさにSFは未来の予言書といってもいいのではなかろうか。そんなSF小説の可能性を教えてくれる関連本を紹介する。



「古びた未来をどう壊す?」宮本道人著

「未来」とは、なんともすてきな言葉だが、職場で将来性のある新規事業のアイデアを求められたり、あるいはふと老後の資金が心配になったり、そして世の中を見回せば持続可能な未来を意識した暮らし方が啓蒙されるなど、四六時中、未来に関する「圧力」が押し寄せているのが現実だ。

 しかし、未来がどうなるかは誰にも分からない。また、未来を考えることは良い面もあるが、「自分の持つ可能性への視野」を狭くする悪い面もある。

 著者は、たったひとつの夢よりもたくさんの可能性を持つことが大切だと説く。そのためには「ハズレる未来予想」をつくったり、使ったりすればいいという。「固定観念から」「いったん敷いたレールから」「一部の人の思惑から」ハズレた、ぶっとんだイノベーティブなオリジナルな未来を予想して「世界を書き換える」のだと。

 本書は、フィクション=ストーリーの力を応用した「SFプロトタイピング」という手法で、そんな「ハズレる未来予想」をする方法と、つくった「ハズレる未来像」を現実に役立てるためのメソッド「SFバックキャスティング」を解説したテキスト。

 なぜフィクションなのか。それは人類がフィクションから現実を生み出すことで発展してきたからだ。中でも、ずっと未来について考えてきたSFは、過去の常識に縛られず、世界の「あり得るかもしれない別の姿」を考えるのに最適だという。

 人生やビジネス、教育にまで幅広く応用できる、かつて誰かが描いた「古びた未来」を壊し、新しい未来を切り開くための「SF思考」の教科書。

(光文社 2090円)

「血を分けた子ども」オクテイヴィア・E・バトラー著 藤井光訳

「血を分けた子ども」オクテイヴィア・E・バトラー著 藤井光訳

 保護区で暮らすギャン一家は、ト・ガトイを家族に迎え入れている。彼女は、トリクの政府から任命された保護区の責任者で、ここではテトンと呼ばれるギャンら人間と直接やりとりするトリクの中でもっとも重要な地位についている。ト・ガトイは、彼女の腹部にもたれかかったギャンを6、7本の脚でまさぐり、体重の増加に満足する。

 保護区の外では彼女の仲間のトリクたちが、必需品のテトンをもっと利用できるようにしたいと画策。ト・ガトイがその矢面に立ってくれているおかげで、テトンは独立集団でいられた。その夜、外の気配に気づいたト・ガトイは、3メートルある体をくねらせ外に出ていき、気を失った若く痩せた男を連れて戻る。ト・ガトイの処置を目撃したギャンは、初めて見る光景に動揺する。

 節足生物トリクとその保護を受けて暮らす人間の世界を描き、究極の男性妊娠小説と呼ばれたこの表題作をはじめ、ほかにも生殖や伝染病など、今日的なテーマに大胆な発想でアプローチした作品集。

(河出書房新社 2585円)

「『これから何が起こるのか』を知るための教養 SF超入門」冬木糸一著

「『これから何が起こるのか』を知るための教養 SF超入門」冬木糸一著

 人間の能力を凌駕しつつあるAIをはじめ、現実はすでにSF化している。技術の進歩は人の価値観も同時に変えてゆく。さらにこの先、テクノロジーと価値観にどのような変化があるのか。それに備えるためにSFほど頼りになるモノはない。だからこそ世界的な起業家にも大のSF好きが多いのだという。

 本書は、10年後の未来を想像するためにお薦めのSF作品を紹介するブックガイド。

「メタバース」という言葉を初めて使ったニール・スティーヴンスン著「スノウ・クラッシュ」や、宇宙エレベーターの存在を世に知らしめたアーサー・C・クラーク著「楽園の泉」など、最新のテクノロジーを「予言」した名作をはじめ、災害に備える実用書として読める高嶋哲夫著「富士山噴火」や、近未来のアメリカを舞台に水利権の奪い合いを描いた気候SFパオロ・バチガルピ著「神の水」など、17のテーマで選ばれた56作品を網羅した「SF沼」への招待状。

(ダイヤモンド社 1980円)

「SFが読みたい!2023年版」SFマガジン編集部編

「SFが読みたい!2023年版」SFマガジン編集部編

 昨年度に発表された新作SF作品をランキング化したガイドブック。

 SF界で活躍する作家・評論家・翻訳家にアンケート。回答があった国内編88人分、海外編は98人分をそれぞれ点数化し、上位各30位までを紹介する。

 国内編の1位は2019年にデビューした新鋭、春暮康一氏の中編集「法治の獣」。収録された3作とも、未来を舞台に異星生物群と人間とのコンタクト、そしてその生態を精緻に描く。2位の長谷敏司著「プロトコル・オブ・ヒューマニティ」とはわずか14点差という接戦を制しての1位だ。

 対照的に海外編は2位にダブルスコア以上の点差でアンディ・ウィアー著「プロジェクト・ヘイル・メアリー」(小野田和子訳)が断然の1位。

 各作品のあらすじやインタビュー、アンケートの全結果、ランクインした作家のコラム、さらにジャンル別ランキングなど、多彩な視点で2022年度のSF界を概観。

(早川書房 1100円)

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