これからの“シン・男”の生き方本特集
「40代おじさんのリアル」前沢裕文著
男女平等というと女性の権利ばかりが注目されるが、実は男だって「男らしく」「男のくせに」という言葉に苦しめられることもある。今回は、男の生き方にまつわる5冊をピックアップ。耳に痛い内容もあるが、男も楽に生きられるヒントが見つかるかもしれない。
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40代おじさんの著者が40代おじさんの意識や行動、価値観を徹底分析する。
生活総研が行った生活者調査「〇〇なおじさんは苦手だ」には、汚いだの加齢臭だの散々な言葉が並ぶ。
しかし、涙をこらえてよく読むと“おじさんのコミュニケーション”が一番嫌われていることが分かる。本書ではこの件について、グラビアアイドルの倉持由香さんに教えを乞うている。
いわく、おじさんにありがちなのが押し付け、自己中、高圧的なコミュニケーション。それは高齢者になるほど顕著だが、40代はなまじSNSを使いこなせてしまうため若者に嫌われる。倉持さんが食事に出かけた際に料理写真をツイートしたところ、おじさんファンから調味料のかけ方から食べ方までこうするべき! という“クソリプ(クソみたいなリプライ)”が来たそうだ。
モテるリプライのコツは「言葉のキャッチボール」だと本書。“おじさんのふり見て我がふり直す”に役立ちそうだ。
(日経BP 1980円)
「諦念後(ていねんご)」 小田嶋隆著
現役当時の肩書や立場を失った定年初心者の男の時間の過ごし方について、コラムニストとして活動していた著者が身をもって体験する。
手始めに行ったのがそば打ち。理由は単純で、“定年後のオヤジはそばを打つ”という固定観念があったからだという。早速浅草のそば屋で開催されている体験コースに参加してみる。そば粉と水を馴染ませていく作業は難しい。還暦を過ぎて人にものを教わることには抵抗があったが、いつの間にか師弟関係が心地よくなってくる。
さらに、いわゆる“コネコネ作業”が思いのほか楽しく、無邪気にひとつの作業に熱中するのは新鮮な体験となる。男が年を取るということは、童心を失ってきた歴史でもある。だからこそ定年を迎えた男たちはそば打ちにハマり、喜びを見いだすのだと理解する著者。
ギターを買い、SNSを始め、鎌倉彫に挑戦するなど、定年後にも諦念しない著者の軽やかなエッセーだ。
(亜紀書房 1760円)
「上野千鶴子がもっと文学を社会学する」上野千鶴子著
社会学者であり東大名誉教授の著者による評論集。
著者が大いに同意するのが、チェ・スンボム著「私は男でフェミニストです」。同書では“男性がフェミニストとして機能したいなら、男と対話しよう”と説いているという。そして“もどかしいことだが男は男の言うことをよく聞く”とも。
上野氏は、若い男性の方がフェミニストのメッセージを受け入れやすく、それは彼らが特権を味わっておらず「子供のくせに」と差別される弱者だからと解説している。
近年増加している、親を介護する息子たちによる虐待事件についても言及。かつては嫁や娘の仕事とされてきたが、少子化でもはや“息子が介護しない理由”はない。平山亮著「迫りくる『息子介護』の時代─28人の現場から」では、家で“女のしごと”をしている男性に対する社会の無理解が指摘されている。
男を苦しめるのは、差別意識に凝り固まった男なのかもしれない。
(朝日新聞出版 1870円)
「どうして男はそうなんだろうか会議」 澁谷知美、清田隆之編
教育学者の著者がテーマごとにゲストを招き、男たちの課題について語り合う本書。
恋愛とジェンダーの問題を中心に文筆活動を展開する清田隆之氏と語るのは「男子バキバキ脳からの脱却」。清田氏もかつては“男ならこう”という考えに凝り固まっていたという。
そんな思い込みが崩れたのが“おにぎり事件”。とある友人が女の子に「おにぎりの具は何が好き?」と尋ね、女の子は「私は昆布かな」と返したという。すると友人は、「いいよね昆布。僕はシャケ」と答えた。清田氏は、男なら昆布でひとネタ話して場を盛り上げるところだろうと鼻で笑ったが、何と女の子は「私はツナも好き」と答え楽しそうな会話が続いていったという。
男の会話は会話ではなく、“プレゼン”であることが多いと本書。その背景にあるのはスゴイと思われたいという承認欲求だ。
会話とは、聞いて、認識を深め合おうとすることが大切だと教えられる。
(筑摩書房 1650円)
「夫婦のトリセツ決定版」 黒川伊保子著
妻とのすれ違いに悩む男たちにおすすめなのが、脳科学の専門家による本書。
夫婦関係がうまくいかない原因はコミュニケーション方法の違いに対する双方の無知であり、決して夫の思いやりがないからではないと勇気づけてくれる。
この世の対話方式は、心を優先する「共感型」と、身体を優先する「問題解決型」の2種類がある。何か問題が起きたとき、前者はつらい気持ちを話すことでストレスを発散する。後者は、リスクを最小限にするため今やるべきことを話す。お分かりかと思うが、たいていの場合、妻は前者で夫は後者である。
この2種類の対話が混ざるとロクなことはない。妻を問題解決型に変えるのが難しいならば、夫が共感型になることだ。相手の話がポジティブなら「いいね」「よかったね」で受ける。ネガティブなら「つらいね」「大変だよね」と相手の使った形容詞を反復してやるといい。
家庭での心の平穏を守りたい夫は必読だ。
(講談社 968円)