澤田瞳子(作家)
5月×日 晴れ。まだ公表できないのだが、あるプロジェクトが関西で始動しており、その打ち合わせに大阪へ。なにせ家に籠りがちな仕事のため、電車での遠出はそれだけで私には非日常だ。だが外出が嫌いなわけではない。特に電車に揺られながらの読書は、自宅でのそれと違って集中できる。ふと顔を上げたときの光景が、手許の書籍の内容とともに記憶に刻み込まれるのも楽しい。
今日のお供は、佐藤洋一、衣川太一著「占領期カラー写真を読む オキュパイド・ジャパンの色」(岩波書店 1254円)。日本がアメリカ占領下にあった時代、この国は公的機関や報道機関、そして進駐の兵士たちによって多くの写真を撮られた。本書はアメリカ兵が私的に撮影し、戦後70年を経て、アーカイブでの公開やネットオークションでの販売によって世に出てきた写真を中心に、それらを取り巻く現状や今後の課題、活用方法などを繙く興味深い新書。ことにアメリカ兵が何を興味深いと考えていたのか、その眼差しの奥にあるものを探る試みは、1枚の写真のこちらとあちら、そしてそれを眺める我々という三者の姿を浮き彫りにして興味深い──おっと、危ない。読書に集中しすぎて、電車を乗り過ごしかけた。
5月×日 曇り。昨日、オムライスを昼食に作ったが、うまくいかなかった。卵部分はうまく焼けるのに、チキンライス部分が水っぽくなってしまうのだ。あまりに悔しいので夕方、街中の老舗洋食屋さんへ。注文したオムライスが運ばれてくるまでの間、「戦後京都の『色』はアメリカにあった!」(小さ子社 2420円)を開く。これは前出の佐藤氏・衣川氏たちの尽力の元、2021年、23年に京都文化博物館で開催された展示の公式図録。いま私がいる洋食屋のかつてのショーケースの写真も納められており、興味深い。戦後とは現在の我々と地続きであるが、両者の間には明らかなねじれと忘却が存在する。色鮮やかなカラー写真にそれを改めて思い出しながら、運ばれてきたオムライスを引き寄せた。