「わたしは、不法移民」カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ著 池田年穂訳
「わたしは、不法移民」カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ著 池田年穂訳
今年6月、わたしは出張の途中でアメリカ南部のヒューストンに立ち寄り、大谷翔平の試合を生観戦した。これ、ほとんど誰にも言ってない話。
ちょうど入管法改定案の国会審議が大詰めの時期だった。わたしは日本に暮らす難民移民が苦境に立たされる法案に反対していた。その大事なときに「大谷くん見ちゃった」なんてミーハーな自慢話は憚られ封印していた。
だからヒューストンの思い出も未整理なのだけど、印象深いのはとにかくヒスパニック系の割合が高かったこと。球場でもカフェでもメキシコ移民と話したし、トラムの車内アナウンスは英語とスペイン語だし、メキシカンかテクスメクス料理かわからないおいしいものをいろいろ食べた。ヒスパニックはもはやマイノリティーじゃないのかも、と思ったほどだ。
しかし本書を読んで打ちのめされた。著者は4歳でアメリカに渡り、非正規滞在者として暮らしたヒスパニック女性。自分の家族と似た境遇の人たちの話を掘り起こした。どのページにも尊厳を奪われて地べたを生きる人の痛みがある。9.11やフリント水質汚染のエピソードも衝撃的だ。
なにより心を揺さぶるのは著者の(そして訳者の)パンクな筆致。わたしは邦題にある「不法移民」という呼び方を避けたい派(せめて非正規滞在者と言いたい派)。だけど著者は見透かしたように吠えるのだ。
「長年、善良な人びとが不法移民に敬意を払った呼びかたをしようと努力するのを見てきたけれど(中略)もっと不躾に『クレイジー・ファッキン・メキシカン』とでも呼んでくれたほうがまだましだ」
ヒリヒリして、やばい。
(慶應義塾大学出版会 2640円)