「梅雨物語」貴志祐介著
「梅雨物語」貴志祐介著
梅雨寒の日、俳人の作田慮男(のぶお)の家を教え子の萩原菜央(なお)が訪れた。菜央は10年前、作田が顧問をしていた中学の俳句部の生徒だった。先月、自殺した兄、龍太郎の歌集「皐月闇」を持参して、作田の感想を聞きたいという。
作田が平凡な句に目を通して終わりの方にさしかかったとき、急に鼓動が速くなった。沖縄で詠んだ句に目をとめた作田が、いつ旅行に行ったのかたずねると、2年前の夏、坂田瞳と婚前旅行に行ったという。
その名を聞いて作田の脳裏に不協和音が響いた。だが、認知症が出始めた作田は思い出せない。作田は、重要なのはこの中の13句だけだと言い、解釈を始めるが、それは菜央のしかけたワナだった。(「皐月闇」)
暑い日に背筋が寒くなるミステリーとホラー3編。
(KADOKAWA 2145円)