街々書林(吉祥寺)店主は旅行作家 自然、民俗、食…旅先への興味が湧いてくる1500冊
「こんにちは」と店に入ると、店主・小柳淳さんが「先週の記事(この欄)見ましたよ。井上さん、奈良の出身なんだって?」と。
「はい、そうですけど」
「見てください、これ」
若草色、松葉色など独特の「あかしや」水彩毛筆ペンと、「活版工房 丹」の手による正倉院宝物のデザイン絵はがきが並んでいる。どちらも奈良の会社の謹製。「うち、“奈良率”高いです(笑)。好きな町だから」と小柳さん。奈良の本、もちろんずらり。
6月、吉祥寺にオープンした。「旅先への興味と敬意を持ってもらいたい」がコンセプト。15坪(ギャラリースペース含む)に約1500冊とゆったりなのは、「それ以上になると、自信のない本も置かなきゃとなるから」と小柳さんサラリ。鉄道会社を卒業後、人生の第2ステージに本屋を選んだ人だ。海外旅行歴123回。「旅のことばを読む」などの著作を持つ旅行作家でもある。
入り口正面に、「屋久島発、晴耕雨読」「洲浜論」など、私には初めての本が平積み。右手に、雷鳥社の「海の辞典」「空の辞典」など見目麗しい辞典シリーズが目を引き、続いてNHKテレビ・ラジオの語学テキスト。「今、コレがすごく売れてる」と小柳さんが言うのが、近くにあった「大人のための英語学習辞典」。読み物としても面白い、実用生活に即した辞典だそう。
以上をプロローグに、国内外の地域別、そして旅に関する自然、民俗、食、神話・宗教・巡礼、紀行、歴史、乗り物などテーマ別に並ぶ本の数々に、私など「ヤバい」の一言だ。
小柳さんが、佐々涼子著「ボーダー」と西牟田靖著「誰も国境を知らない」を案内してくれ、「その2人、友達です」と言う隙なく、次。「これがまたスゴいんだ」と棚から引っ張り出したのが正津勉著「裏日本的」。上越から若狭まで、日本海沿いに育まれた古今の文学作品の論評という。「見たい見たい、その本」と私。なんだか小柳さんともうお友達になった気分!
「本との出合いはタイミングだよ」と推定60代男性客が言い、連れの女性が「うん。買っちゃうわ」とペルシャ装飾関係などの本を4冊大人買いする光景にも出合った。
◆武蔵野市吉祥寺本町3-3-9/JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩8分/12時34分~18時、月・火曜休み+臨時休(小柳さんが旅に出る日)あり
ウチで売れている本
「グッド・フライト、グッド・ナイト」マーク・ヴァンホーナッカー著 岡本由香子訳
サンテグジュペリ「夜間飛行」以来の名作──と旅行雑誌で称えられ、アメリカではベストセラーに。
「BA(英国航空)のパイロットが、飛行のルールから、高度3万フィートから見下ろす地球の絶景まで、空の魅力や秘密を明かすエッセー。飛行機も英語も熟知した、元航空自衛官の岡本さんの翻訳です。旅好き・飛行機好きの人にはたまりませんよー」
(早川書房 968円)