ハッカーの世界地図

公開日: 更新日:

「ラザルス」ジェフ・ホワイト著 秋山勝訳

 いまやネットはヘイトやフェイクが横行する闇世界。特に独裁国家の仕掛けるハッキング攻撃の影響は甚大だ。

  ◇  ◇  ◇

「ラザルス」ジェフ・ホワイト著 秋山勝訳

 北朝鮮といえば財政は破綻し、国民は飢えているというイメージが強い。しかしネットの世界では別。

「ラザルス」とは西側のセキュリティー研究者が北朝鮮のハッカー集団につけた通称。

 政府機関や金融企業、さらに大学やエンタメ企業までさまざまなネットワークに侵入し、機密を盗み出しては資産をだまし取り、情報を漏洩して人や組織に打撃を与える。2014年、北朝鮮をパロディーにした米映画を製作したソニー・ピクチャーズがラザルスによる大規模なハッキング被害に遭った。

 本書はイギリスの技術ジャーナリストが長年の取材にもとづいてラザルスの暗躍の実態をつぶさに描いたノンフィクション。英BBC放送のポッドキャスト番組で著者が発表した内容も多く含まれている。

 ラザルスの活動は通常のスパイ活動を超えた多様性が特徴。

 たとえば韓国で開発されたオンラインゲームで、ラザルスのメンバーはモンスターを自動的に倒すシステムを開発し、そこで得たポイントをほかのゲーマーに売って資金を稼いだという。北朝鮮のネット環境が貧弱なため、中国に移って継続的なハッキングを行う要員も多い。

 北朝鮮の脅威をまざまざと感じさせる良書。

(草思社 2420円)

「ロシア・サイバー侵略」スコット・ジャスパー著 川村幸城訳

「ロシア・サイバー侵略」スコット・ジャスパー著 川村幸城訳

 中国、北朝鮮と並ぶ独裁国家といえばロシア。トランプが勝利した2016年の米大統領選で飛び交ったSNSのフェイクニュースなどは多くがロシアの雇ったハッカーによる攻撃だったことが知られている。本書は米国のサイバー戦のエキスパートによるドキュメント。

 地上軍部隊によるウクライナ侵攻が始まる前から、同国にはロシアの大規模ハッキング攻撃が展開されていた実態などがわかる。国際法の基準に照らすと武力行使未満とされるサイバー戦だが、その破壊的影響力はきわめて大きい。

 いまやハッキングは当たり前の時代。サイバーセキュリティーをめぐる無策こそがとがめられねばならないのだ。

(作品社 2860円)

「偽情報と独裁者」マリア・レッサ著 竹田円訳

「偽情報と独裁者」マリア・レッサ著 竹田円訳

 フィリピンといえば独裁者。かつてはマルコス、最近では「ミニ・トランプ」ことドゥテルテ。そして今の大統領は、ドゥテルテ路線の継承を掲げるマルコスの息子とくるのだからたまらない。

 そのフィリピンで独立系メディアを創設し、2021年、ノーベル平和賞を受賞したフィリピンのジャーナリストが本書の著者だ。

 フィリピンで生まれ、母親と渡米して大学まで学び、フィリピンに戻ってCNNの記者を経て独立系メディアを立ち上げた。本書はその勇気あふれる歩みを率直につづった半自伝。

 80年代に報道界に入った著者はテクノロジーの変遷を見てきた。インターネットの出現当初は最も有望なメディアと信じたが、近年のSNSの乱脈ぶりや他人への誹謗中傷のひどさを見るにつけ、警鐘を鳴らすようになったという。

 ネットこそフェイク情報の巣窟。改めてそう感じる。

(河出書房新社 2420円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…