戦争と経済
「戦争と財政の世界史」玉木俊明著
戦争にはカネがいる。こんな当たり前の話がいまこそ重要だ。
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「戦争と財政の世界史」玉木俊明著
日露戦争は当時の日銀副総裁・高橋是清らが外国で債券を調達し、国債を発行したことでやっと勝てた戦争だった。そんな話から始まる本書は、古今東西の例を縦横に引きながら戦争と財政のかかわりを広く紹介する。
古今東西を問わず、戦争は莫大な金がかかる。ヨーロッパ経済史を専門とする著者は多数の古今の例から、いかに戦費の調達がなされたかに注目する。
たとえば近代のヨーロッパでは火器の発達で戦費が急増したが、軍事大国プロイセンではフリードリヒ大王が製糖業に力を入れてこれをしのいだ。
だが、のちのオランダやイギリスのように公債を発行していればさらに楽だったろうという。
現代日本でもコロナ対策でさらに国債は発行され、巨額に膨れ上がっているが、実は公債は経済が必ず成長することが前提になったしくみ。少子高齢化と低成長が予想される将来、いままでのような公債頼みの近代システムは終わったとみるべきだろう。人口大国のはずの中国でさえ、一人っ子政策のツケで新生児人口が初の1000万人割れという。
人口減と税収減が重なれば、そのうち債務不履行国家が続出とも限らない。もはや戦争どころではなくなるのだ。
(東洋経済新報社 2200円)
「戦争と交渉の経済学」クリストファー・ブラットマン著 神月謙一訳
「戦争と交渉の経済学」クリストファー・ブラットマン著 神月謙一訳
著者はアメリカの開発経済学者だが、関心の主軸は紛争研究。対象とするのは国家間の戦争だけでなく、民族同士の積年の対立、貧困地区のギャング集団間の抗争にいたるまで、大小さまざまだ。
人はなぜ互いに争い、命の危険を冒してまで戦いをくりひろげるのか。著者は古今東西の多数の例を紹介しながら考察する。
財貨や新たな領土を獲得したり、集団を支配するためという動機は不変。しかし、人が争う動機はそれら有形物ばかりではない。義憤や名誉欲、またイデオロギーといった無形のものも人を戦争に駆り立てるのだ。
また経済制裁などの非軍事的手段で戦争を抑止できるのかという問いについて、著者は「制裁の成果」つまり制裁によって戦争を諦めた数を定量化することは難しいという。しかし、一般民衆まで犠牲にする包括的制裁でなく、悪徳政治家や政商などに的を絞ったターゲット制裁は効果があるという。
ウクライナ戦争についてもプーチンの個人資産や取り巻きへのダメージに的を絞ると有効だろうか。
(草思社 3740円)
「いちばんやさしい地経学の本」沢辺有司著
「いちばんやさしい地経学の本」沢辺有司著
ロシア軍の高官によれば、21世紀は「戦争と平和の間が曖昧な状態になる」時代だという。その両方に共通するのが経済。世界を戦略的な空間としてとらえる地政学を、経済の観点から特化したのが本書のいう「地経学」だ。
島国の日本は地政学でいう「シー・パワー」の国。それに対して広大な陸地を擁する中国やロシアは典型的な「ランド・パワー」の国。同じ海洋国のイギリスと同じく、シー・パワーの国は大陸に覇権を求めないのが鉄則。ところが1930年代の日本は不況から脱するために国外に市場を広げ、中国内部に進出した企業を守るために日本軍も中国に侵入。おかげで鉄則を破ることになり、泥沼の戦いを強いられた。
また、当時の日本は戦略物資の7割を米国に依存していたにもかかわらず、対米交渉の失敗から戦争に突入して敗れた。戦後は安全保障を米国に依存して経済復興したが、米経済からの圧力に抗しきれずにバブルからバブル破綻へと一直線。「第2の敗戦」となった。
こんな解説をする著者は「アート、旅、歴史、語学」にくわしいフリーライターだそうだ。
(彩図社 1650円)