古書みつけ 浅草橋(浅草橋) 7坪のしゃれた空間に「柳橋文学」「芥川賞受賞作」などズラリ
「今では浅草まで地下鉄2駅ですが、ここ浅草橋はかつて奥州街道の要衝。江戸城三十六見附の一つ、『浅草見附』があった場所なんです」
入り口に迎え出てくれた店主・伊勢新九朗さんに「店名はどこから?」と聞くと、こう説明してくれ、さらに「当時、浅草寺へお参りに来る人はほぼ男性。帰りにお土産を買う。なので、近辺に玩具・人形の店が増えたそうです」と。
なるほど。そういや立派な花街(柳橋)もあったはず。てなことも頭に巡らしつつ、改めて「古書みつけ」さん、こんにちは。
古民家を改装。真ん中に百日紅の木あり、扉付きも潜む本棚あり。推定7坪のしゃれた空間だ。
伊勢さんは2015年に編集プロダクションを「たまたま浅草橋で」立ち上げた。いわく「ノリ」で地域のウェブメディア「浅草橋を歩く」を始め、この地の魅力にとりつかれる。飲食店121店舗のガイド「浅草橋FAN BOOK」を手弁当で作った。その工程で「この地域に本屋も」との思いが込み上げ、21年10月にオープンさせちゃったのだ。
まず、石川達三「蒼氓」、大岡玲「表層生活」と目が合う。歴代の芥川賞受賞作を集めた棚だった。そのお隣に幅を占める「浅草橋・柳橋文学」の棚がスペシャル。
「島崎藤村は晩年、すぐ近くに住んでいたし、池波正太郎、山本周五郎、藤沢周平、永井荷風らそうそうたる文人に描かれてきた『文学の街』だから」と伊勢さん。極め付きは、幸田文の「流れる」。女中として柳橋の芸者置き屋に住んだ主人公が花柳界の風習などを観察する、昭和30年に新潮社から出た名作らしいが、装丁が異なる5種類が一堂に会し、それぞれ複数冊並ぶ。「よく集めましたねー」と言えば「地元の人から譲り受けたりも」。
伊勢さん、すっかり地元に溶け込んでいるー。おまけに左手の壁面には、昭和中期らしきモノクロームの地元写真が十数枚。「洋食屋『一新亭』のご主人、秋山武雄さんは、読売新聞にも連載している写真家で……」。出前持ちが後席に箱を高積みした自転車に乗っているショットに、私などしびれっぱなしだ。その秋山さんの「東京懐かし写真帖」、即座に買う。
一隅に「ユダヤ」「フリーメイソン」関係本。結構な量がかたまっている。「断捨離を始めた父の怪しい蔵書です(笑)」とのことで、そちら方面を好きな方もぜひ。
◆台東区柳橋1-6-101階/JR総武線・都営浅草線浅草橋駅から徒歩2分/営業時間・休みとも不定。HP参照を。
ウチから出した本
「気がつけば認知症介護の沼にいた。」畑江ちか子著
(古書みつけ刊 1650円)
「ウチは時々出版社としても機能します。『気がつけば○○ノンフィクション賞』を去年から公募していて、その受賞作などを商業出版。この本は2冊目です。事務職から介護職に転じた著者が、グループホームでの仕事をつづったもの。衝撃的なこともあるけど、笑いあり、やりがいあり。著者の生き方・考え方が、介護に携わる方、介護に悩む人たちの一助になるよう願って、11月に刊行しました」