著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

マルジナリア書店(府中・分倍河原)街並みが一望できる店内に人文書など選び抜かれた3000冊

公開日: 更新日:

 分倍河原駅は初めてだが、迷いようがない。改札の目の前のビルの3階だから。エレベーターを降り、「どうぞどうぞ」と店主・小林えみさんに誘われるままに、まず店の最奥、カフェスペースへ。

 うわー。歓声をあげてしまった。広い窓から、街並みが一望だ。

「朝は富士山も見えるんですよ」と小林さん。景色を見ながらお茶を飲み、本を開けるなんて極楽じゃないですか!

 小林さんは法律系出版社出身で、2020年7月に「よはく舎」という“1人出版社″を立ち上げた。作った1冊目が「U30世代がつくる政治と社会の教科書」が副タイトルの「YOUTH QUAKE」。「自社本の売り場を自分で確保したい」と、書店を持ちたかった。物件探しを始めるや、さっそく「この景色」に出合い、21年1月に開店したそうだ。コロナ禍だったが、「西の文教地区なんです。おうち時間を大切にしようと読書される方が増えた時期と合致しました」。

常連は幼稚園児から最高齢の86歳まで

 40坪の店内に、選び抜かれた3000冊。まず目に飛び込む新刊棚に、「近代日本を作った一〇五人」「アメリカは内戦に向かうのか」「世界一流エンジニアの思考法」「アイスピックを握る外科医」など17冊。

「草彅剛主演のドラマ『デフ・ヴォイス』で関心が高まった」からと大人向け・子ども向けの手話の本がずらり。パレスチナ問題、宗教関係本、ライトエッセー、料理本、絵本も。「ビジネス書と実用書が少ないですが、人文書は押さえているつもりです」と小林さん。「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」(斎藤幸平著)などよはく舎の刊行本ももちろんずらり。

「主なお客さんは本をよく読む大学生や、ファミリー層。常連の最高齢は86歳の女性で、毎月歴史小説を数冊お求めになります。お若いのは(笑)、4~5歳。『小林えみさんのとこに行くー』と私のことをフルネームで言って、おうちの人と来てくれ、絵本を見る子。すご~くうれしいです」

 聞いている私までうれしくなった。

◆府中市片町2-21-9 ハートワンプラザ3階A-2/京王線・JR南武線分倍河原駅すぐ/℡080・7416・8910(営業時間のみ対応)/11時半~20時、水曜15~20時、定休日なし(月2日休みあり)

ウチらしい本

「犬ずもう」最勝寺朋子著、イラスト

「新宿にある“2人出版社”が11月に出した絵本です。新刊案内を見てピンとくるものがあって仕入れたんですが大正解でした。『犬ずもう』とは仲良しの犬たちが激しく戯れ合うことだとか。多種多様な犬たちが、普段とは違った表情、しぐさで『はっけよ~い』するの、すごくステキですよー。もう20冊以上、売りました」

(めくるむ 1980円)

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