「つながらない覚悟」岸見一郎著/PHP新書
「つながらない覚悟」岸見一郎著
大ベストセラー「嫌われる勇気」著者による人間関係を説く本である。世の中の風潮は「絆」こそ大切で、人間同士の付き合いはすべて尊い、的なものがある。だが、著者は「偽りのつながり」もあると述べる。
〈支配、強制されて作り出されるつながりは、偽りのつながりである。このつながりは、人は本来的には他者と繋がって生きているという意味の真のつながりとは別物である〉
人間関係というものは、職場におけるものもあるが、新型コロナ騒動においてリモートワークが一部では定着した。私のようなフリーランスのライターは元々リモートワークだったが、勤め人であってもリモートワークとなった。これについて批判的な意見も存在する。それは「やはり人間というものは対面でなくてはいかん」というものだ。これに対してはこう述べる。
〈仕事は在宅でも可能だが「やはり」対面でないとできないと考えて出社を強いるのは表向きの理由でしかない。その本当の理由を本人もわかっていないのかもしれない。それは自分の目の届く範囲で部下に仕事をさせ、支配したいからである。出社するように指示するのは、仕事の効率とは関係ない〉
こうして人間関係の定説にNOを突きつけるが、第11章は「愛するということ」と題されている。ここについては私自身の「愛」について書いてみる。1995年、一橋大学商学部にいた私は楠木建講師(当時)の「生産管理」という講義を受けていた。その中で「ホーソーン工場の実験」というテーマがあった。
これは、ウェスタン・エレクトリックという会社で、いかにして生産性を上げるかを考える実験をしたことについてである。照明を明るくしたり、オヤツを出すなどしても生産性は上がらない。
そして、従業員に面談をしたところ、実際に大事だったのは「愛」だったのだ。従業員同士の間の「愛」がもっとも生産性向上にとって大きな影響を与えた。楠木氏は4月から7月までの夏学期、講義ではひたすら生産性向上について述べていた。それはテクニカルなものが多かったし、マーケティング手法をいかに駆使するか、というものだった。
だが、最終講義で楠木氏は突然ビートルズの「The End」をCDで流した。「僕は生産性についてみんなに伝えた。だけど、結局人生ってもんは『愛』なんだよ。この曲がすべてだ」と語った。
その歌詞を日本語に訳すとこうなる。
「最終的にはあなたが与えた愛はあなたが受ける愛と同じ量になる」 ★★半(選者・中川淳一郎)