「デジタル教育という幻想 GIGAスクール構想の過ち」 物江潤著/平凡社新書
「デジタル教育という幻想 GIGAスクール構想の過ち」 物江潤著
著者の物江潤氏は、早稲田大学理工学部を卒業後、東北電力に入社したが、方向転換し、松下政経塾に入った。政経塾は政治家や経済人を志望する人が多いが、物江氏は教育を選んだ。現在は福島市で塾を経営している。難関校を目指す生徒だけを集めた進学塾ではない。さまざまな子どもたちを集めた本来の意味での教育塾だ。物江氏の教育に関する論考はいずれも優れている。
物江氏は国が進めているGIGA(Global and Innovation Gateway for All、“全ての人に地球規模で技術革新が出来る道を”の意)という教育政策を手厳しく批判する。
既に小中学生に1人1台のタブレットが配られている。しかし、それは教育効果をあげるために役立っているとは言えない。学校側が設定したフィルターを児童・生徒が簡単に突破し、ゲームやYouTube視聴(アダルトコンテンツが含まれる場合もある)などの遊び道具として使われ、学級崩壊の原因になっているからだ。物江氏の記述は実証性に富み、説得力がある。
<授業中や休み時間中、好き放題にタブレット端末で生徒は遊び続けるものの、管理は極めて難しいため指導を断念し、先生は見て見ぬふりをする。表面上は上からの命令に応じつつも、実のところ生徒の管理監督を放棄することで業務量が縮減できる先生と、タブレット端末で遊び倒せる生徒との間に、歪なwin-winの関係が形成され状況が安定してしまう。結果、家庭・学校で四六時中タブレット端末やスマホを使用する生徒が続出し、種々の深刻な問題が生じてしまう。(中略)目的外利用が常態化し学習に支障が生じているような状況においては「タブレット端末の利用を禁ずることができる」といった内容に(文部科学省による)通知を改めるべきです>
との物江氏の提言に評者も全面的に賛成だ。
デジタル先進国であるオランダ政府が<授業中に機器を使用することで児童・生徒の集中力の低下や、成績への悪影響が生じている>との理由で来たる4月1日より学校でのタブレット端末、携帯電話などの使用を禁ずるという。デジタル機器が持つ「毒」を警戒しなくてはならない。 (2024年1月4日脱稿)
★★★(選者・佐藤優)