「ザイム真理教」森永卓郎著/三五館シンシャ
「ザイム真理教」森永卓郎著
大手出版の数社から断られたこの本が売れているらしい。軒並み忌避されたのは、旧大蔵省の財務省外局の国税庁が怖いからだろう。
私も「大蔵省分割論」(光文社)を出した時、テリー伊藤の「お笑い大蔵省極秘情報」(飛鳥新社)で発言している匿名の官僚に、「もしこれ以上突っ込もうとするならば、佐高信の身辺を洗いますよ。彼の必要経費を認めなければいいんだから」と脅された。
著者の言う「ザイム真理教」とは、財務省が布教してきた「財政均衡主義」である。これに自民党だけでなく野党の立憲民主党までが洗脳されている。ポイントは消費税で、立憲の野田佳彦や安住淳らの財務大臣経験者はもちろん、岡田克也や枝野幸男まで侵された。私は頭文字を取ってNAOEと称したが、野党共闘を妨げる財務ウイルス保持者だ。
「消費税は日本経済に致命的な打撃を与えているので、最優先課題は消費税の引き下げ、あるいは撤廃」という視点から、著者はNAOEを含む消費税引き上げ論者を徹底批判する。
財務省は、消費税率の引き上げ分は社会保障のために使われる、と主張するが、そもそも社会保障制度は社会保険制度が支えてきたのである。労使が共に支えるのがこの制度の基準であり、「厚生年金にしろ、健康保険にしろ、負担は労使折半だ。保険料の半分を企業が負担している」のに「消費税は全額を消費者が負担する」。「高齢化が進むなかで、社会保障の負担が大きくなってきている」のは事実だが、「だからこそ、皆で社会保障を支えないといけない。ところが、消費税を社会保障財源にするということ自体が、企業が社会保障負担から逃れることを意味してしまう」のである。
著者のこの指摘は説得力がある。新自由主義はこの国において会社の自由を増大させるだけで、一般の国民を富ませることはなく、会社は富むが社員は貧しい“社富民貧”の社会を結果させた。消費税は上げるが法人税は下げ、闘わない連合が本気で賃上げを求めないこともあって、何と企業の内部留保が555兆円にもなったのである。
著者はザイム真理教の強力なサポーターは「大手マスメディアと富裕層」であり、「親衛隊は国税庁だ」と喝破している。岸田文雄が最初主張していた金融所得課税を見送り、法人税の引き上げにも取り組まない財務省の罪は大きい。ただ、著者の推す「MMT(現代貨幣理論)」には賛成できないので、その分だけ減点する。 ★★半(選者・佐高信)