「黒と誠~本の雑誌を創った男たち~ 1~3巻」カミムラ晋作著/双葉社
「黒と誠~本の雑誌を創った男たち~ 1~3巻」カミムラ晋作著
作家・椎名誠氏が書評家・目黒考二氏とともに創った「本の雑誌」。1976年に第1号が創刊されてから書評誌として盤石のポジションを築き続けている。本書は全3巻。私はこの3冊を2時間半で全部読み、「いい漫画を読んだ」と思った。
「本の雑誌」および椎名氏や目黒氏、沢野ひとし氏、群ようこ氏らが好きな人にとっては必読であろう。ベースには本の雑誌社の社史的な書籍も含まれていて「参考文献」として多数紹介されている。
目黒氏は2023年1月19日に76歳で亡くなった。本書は本の雑誌がいかにドタバタのなかではじまり、その後さまざまな著者や大学生の協力を得て今の立場を築いたかを振り返る本である。それと同時に「北上次郎」という書評家としてのペンネームを持つ目黒氏を追悼する本でもあり、そのことを把握して読むと泣けるストーリーだ。
椎名氏の著書を精読している人々からすれば「あったあったwwww」と笑えるようなエピソードもふんだんに盛り込まれている。特に「わしらは怪しい探険隊」(角川文庫)と「哀愁の町に霧が降るのだ」(小学館文庫)をベースとした記述は多く、椎名ワールド、本の雑誌への思いを馳せることができる。
全3巻ということで、3冊買わなければ結論は読めない漫画なのだが、作者のカミムラ晋作氏はこの複雑な流れを見事に漫画の形式でまとめた。椎名氏と目黒氏が3回対立した話など「プロジェクトX」(NHK)的なサラリーマン奮闘記的側面も持つ。
「活字中毒」と評された目黒氏は本を読まないと禁断症状が出てしまうような人物だったが、そんな人物に「本を読むことが仕事になる仕事を創ればいいのでは」と考えた椎名氏は本当に好人物だ。
本書では「さらば国分寺書店のオババ」でさっそうとデビューした椎名氏(厳密にいえば2冊目だが)の若き日々の文壇を駆け上がるさまも描かれており、一人の男の出世ストーリーとして読める。
そして、良い感じのスパイスになっているのが、椎名氏が働いていた会社のクソ幹部の存在だ。徐々に存在感を高めていく椎名氏に対し、苦言を呈し、せっかく送った自著さえ読まなかったといった記述は「男の嫉妬」を感じさせる。
また、本書の編集者が過去に本の雑誌社にかかわっていたことなども「あとがき」で明らかにされ、椎名ワールド好きにはたまらない。 ★★★(選者・中川淳一郎)