「七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり」増田俊也氏
「七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり」増田俊也著
熱烈な読者をつかんだ自伝的青春小説「七帝柔道記」から11年。待望の続編が出た。七帝柔道は旧帝国大学7校だけに戦前から受け継がれている寝技中心の特異な柔道で、年に1度「七帝戦」が行われる。主人公の増田は七帝柔道に憧れ、2浪して北海道大学に進学、柔道部に入った。だが、かつて強豪だった北大柔道部は低迷し、4年連続最下位になってしまう。ここまでが前作のストーリー。
そして本作は、どん底状態から幕が開く。上級生はみな引退、部員も減るなかで、増田は副主将になり、同期の竜澤が主将になった。何が何でも最下位脱出! と、2人はプレッシャーと闘いながらタッグを組んでチームを率いることになる。
「わがままで子どもっぽい竜澤が見事なリーダーシップを発揮するようになります。みるみる成長していく。サラリーマン生活は40年、学生時代は10分の1の4年ですが、4年の間に新入部員がリーダーに変貌するんです。4年生はみんないい顔になりますよ。後輩たちは言葉でもアメでもムチでもついてきません。先輩に心から尊敬の念を持っていなければ、あんなきつい練習についてこないですよ」
七帝柔道は15人対15人の団体戦。勝って抜きにいく「抜き役」と、なんとしても引き分けに持ち込む「分け役」がいる。
華麗な投げ技が見せ場の講道館柔道と違って、組み合ったまま汗まみれで畳の上をころげ回る。少しでも多く練習した者が勝つと信じて、うめき声を上げながら苦行のような練習を続ける。満身創痍。増田は膝を痛めているが、テーピングの上に切り裂いた自転車のチューブを巻きつけて練習に出る。
「頭の中には勝つことしかないから、痛みなんてどうでもいいんです(笑)。仲間のために何ができるか、それだけですよ。たまたま体が小さくても、力が弱くても、チームの役に立てる。抜き役も分け役も同じ。分け役が必死に相手を止めたら1勝に値しますからね。お互いに支え合っているから本当の友達もできるし、仲間との絆も生まれるんです」
練習が終われば、仲間と飲み、語り、ふざけ合う。汗と涙と笑いがあふれる青春の日々は少年を青年に変えていく。
七帝柔道をめぐる物語だが、そこにはリーダー論や組織論、人材育成論や人間関係論のエッセンスがぎっしり詰まっている。ビジネス書を山ほど読むより、この一冊が心に刺さるだろう。
昭和が平成に変わった年の夏。北大柔道部が最下位脱出を懸けた七帝戦の日が来て、宿敵東北大学と対決することになる。
「最後の試合シーン、泣きながら書きました。涙で老眼鏡が曇ってしまって。この作品を書くのが僕の使命だと思っているんです。30年以上前ですが、北大柔道部の後輩が若くして亡くなりました。僕たちの夢を背負って戦った後輩の魂に捧げたいと思って書いた鎮魂歌です」
この物語はまだまだ終わらない。次は後輩たちが優勝という目標を掲げて京都大学に挑んでいくという。
「スポーツや柔道を知らない人に読んでもらいたいですね。仕事でも家事でも勉強でもなんでもいい。一生懸命やっている人を応援したい。一生懸命はかっこいいんです。僕は来年還暦だけど、若い作家に負けないように頑張りますよ」 (KADOKAWA 2200円)
▽増田俊也(ますだ・としなり) 1965年愛知県生まれ。2006年「シャトゥーン ヒグマの森」で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学芸術学部客員教授。